気がついたら朝はいつもパン食。昔は米を食べないと食べたような気がしなかったけど。




2005年3月7日の句(前日までの二句を含む)

March 0732005

 春や春まづはぶつかけうどんかな

                           有馬朗人

年の冬は長い。「春や春」には、まだとても遠そうな日がつづいている。誰かの短歌に「待っていればいずれは来るものを、人は何故わざわざ春を探しにいったりするのだろうか」、そんな趣旨のものがあった。この句をここに載せる私の気持ちも、やはり春を待望しているからなのだ。ああ待ち遠しい、寒いのはもうご免だ。掲句では、すでに春爛漫。外出先ですっかり嬉しくなって、なにはともあれ「ぶつかけうどん」で腹ごしらえをすることにした。うどんにもいろいろな種類があるけれど、この場合は「ぶつかけ」という言葉の勢いが気に入って注文したのだろう。「ぶつかけうどん」の味が好きというよりも、言葉が気分にマッチしての選択である。大袈裟に言えば時の勢い、別の何かを食べたくて店に入ったつもりが、メニューに並んだ料理名を見ているうちにふっと気が変わることはよくある。作者ははじめから「ぶつかけ」に決めていたのかもしれないが、いずれにしても言葉に惹かれたのには違いあるまい。食べるときにタレをぶっかけるとはいっても、それは言葉の綾というもので、実際には飛び散らないように静かにかける。お上品にも、いちいち別皿のタレにうどんをからめて食べるのは面倒だ。そこで、「えいっ」とばかりにぶっかける気持ちでかけるから「ぶつかけうどん」。東京辺りでも、まだまだ「ぶつかけ」ならぬ単なる「かけうどん」の似合う日がつづきそうだ(笑)。『不稀』(2005)所収。(清水哲男)


March 0632005

 黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ

                           林田紀音夫

季句。人は死ぬ、誰でもいつかは。が、私たちの多くは普段そのことを強く意識して暮らしているわけではない。たまに何かのきっかけがあって、ふっと意識させられることだ。意識させられて、この免れ難い宿命に悲観したり暗澹としたり、あるいは逆に死の万人平等性に安堵したりするなど、そのときその人にとっての反応はさまざまだ。作者のきっかけは、雨の道でだった。読者諸兄姉は、どんな情景を思い浮かべるでしょうか。キーは「黄の青の赤の雨傘」。これを、他に黒もあれば茶もあるというふうに色とりどりの傘と読むか、あるいはこの三色の傘に限定して読むかによって、解釈は異なってくる。私は後者と読んで、傘をさしているのは小学生くらいの女の子だと想像した。色とりどりだと、老若男女すべてが含まれてしまい、ポエジーに鋭さが欠けてしまう。おおかたは歳の順番さ、みたいな答えを出されてもつまらない。雨の道で前を行く三人の女の子、まだこれからたっぷりの時間が残されている幼い三つの命。傘の色が違うように、これからそれぞれの人生も違っていくわけだが、しかし終局的には死の一点において行きつく先は同じである。ただ、お互いの死が早いか遅いかの違いは確実にある。その違いに着目したとき、作者は言い知れぬ人間存在の寂しさを感じたのだ。そんな作者の思いなどもちろん知るはずもなく、元気に屈託なく歩いてゆくちっちゃな三人の女の子……。現代俳句協会編『現代俳句歳時記・無季』(2004)所載。(清水哲男)


March 0532005

 春服の部下を呼び付け叱らねば

                           久松洋一

語は「春服(しゅんぷく)」。正月の「晴れ着」ではない。春の明るく軽やかな服装のこと。男女の着る和装、洋装いずれをも指すが、どちらかといえば女性の洋装が詠まれる場合が多い。掲句も、そうだろう。とくに若い女性のファッションは、季節に敏感だ。いや、季節を先取りすると言ったほうが適当か。この女性も、まだ春というには寒い日に、いかにも春らしい服装で出勤してきた。それだけでオフィスは華やぐ感じがするものだが、彼女自身もいつもよりは気分が華やいでいるようで上機嫌だ。が、彼女が仕事上の失敗をしたことを、上司である作者は気がついている。そのままにしておくと今後とも業務に差し支えるので、どうしても「叱らねば」ならない。叱ったら、きっと彼女はションボリしてしまうだろう。せっかくの「春服」の華やぎも台無しだ。できることなら叱りたくはないのだけれど、立場上からしてやむを得ない。でも、いつ「呼び付け」ようか。もう少し後でもいいかな……。気が重い。タイミングを計りながら、ちらちらと彼女の様子をうかがっている中間管理職の苦さがよく伝わってくる句だ。私は作者のような立場になったことはないが、上司には「部下」にはわからない上司としての辛さがあるのだ。上司もつらいよ。「抒情文芸」(2005年春号)所載。(清水哲男)




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