学年雑誌の付録のおひなさまを組み立てて、テレビの上に飾った日も遥かに遠くなった。




2005ソスN3ソスソス3ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 0332005

 地の涯に倖せありと来しが雪

                           細谷源二

者は1941年(昭和十六年)の新興俳句弾圧事件で逮捕、二年間投獄され、敗戦の直前に東京からの開拓移民として一家をあげて北海道に渡った。北海道史をひもといてみる。「来れ、沃土北海道へ、戦災を転じて産業の再編成」というスローガンの下、拓北農民隊と呼ばれた応募者は東京都1719戸、大阪府583戸、神奈川県343戸、京都府257戸という具合に大都市圏からの移住者が多かった。しかし彼らに与えられたのは、沃土どころか大部分が泥炭地や火山灰地であり、ましてや農業経験もない人たちにはあまりにも過酷な現実であった。掲句には過酷とも苦しみとも何も書かれてはいないけれど、最後に置かれた「雪」の一文字で全てが語られている。同じように「幸せ」を求めたカール・ブッセの「山のあなた」の主人公は「涙さしぐみ、かへりきぬ」(上田敏訳)と戻ってくることができたが、開拓移民にはそれもならない。見渡す限りの大地を覆い尽くし、なお降りしきる雪のなかに、胸ふくらませた「倖せ(しあわせ)」などは完全に飲み尽くされてしまった。全てを失った者の茫然自失とは、こういうことを言うのだろう。今年は敗戦後60年にあたる。もはや北海道でも語られることの少ないであろう歴史の一齣だ。今日も北海道は雪のなか、雪のなかの雛祭り……。『砂金帯』(1949)所収。(清水哲男)


March 0232005

 水門に少年の日の柳鮠

                           川端茅舎

語は「柳鮠(やなぎはえ)」で春。特定の魚の名ではなく、春の十センチ足らずの、柳の葉に似た淡水魚を指す。東京あたりで「はや」といえばウグイのことだし、琵琶湖で「はい」「白はえ」というのはオイカワ(追川)の雌のことだ。また高知ではカワムツの俗称など、魚の名前は地方によって違ったりするのでややこしい。と、これは物の本の受け売りだけれど、ならば私が少年期を過ごした山口で「はえ」とか「はや」とかと呼んでいた魚は、何だったのだろうか。たしかに、形は柳の葉に似ていたから「柳鮠」という総称に入れて間違いではないだろう。小さくてすばしこくて、彼らが川に登場してくると、川端のネコヤナギもふくらんできて、ああ春なんだなあと実感したものだった。昔は川が澄んでいたから、学校帰りに飽かず覗き込んでは時を忘れた。なかでも早春の川では、メダカが泳ぎ川エビが飛び回り、動くものが増えてくるので楽しくも美しい。五年生のときだったか、その日にもらった何かの賞状をそこらへんに置いて夢中で除いていたら、あっという間に春風にさらわれて水に流されてしまったのも、懐かしい思い出だ。掲句の川は「水門」があるくらいだから、川幅は相当に広いのだろう。通りかかって気まぐれに、少年時代には無かった水門のあたりを覗いてみると、そこにはしかしちゃあんと「少年の日」そのままに「柳鮠」が元気に泳いでいた。懐かしくそして嬉しかったと、いかにも早春らしい抒情を湛えた句だ。『新歳時記・春』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


March 0132005

 莨火を樹で消し母校よりはなる

                           寺山修司

季句としておくが、高校卒業の日を題材にした句だろう。すなわち「母校はなる」は卒業の意だ。しかし下五を「卒業す」としたのでは、あっけらかんとし過ぎてしまい、青春期の屈折した心情が伝わらない。たぶん作者は、高校生活をかなりうとましく感じていたのだろう。しかし、全部が全部うとましかったわけでもない。こんな学校なんて、とは思っていても、いざ卒業ということになると、去り難い気持ちもどこかに湧いてくる。式典が終了しクラスも解散、後は帰宅するだけというところで、校庭の片隅か裏門のようなところでか、クラスメートからひとり離れて「莨(たばこ)」に火をつけた。制服のカラーのホックを外し、第一ボタンを外して、不良を気取った例の格好で……。で、喫い終わった莨火を消すときに、地面で踏み消せばよいものを、わざわざ「樹」になすりつけたのである。この消し方に、母校への愛憎半ばした粘りつくような心情が込められているわけだ。さらっと「あばよ」とは別れにくい心情を、力技でねじ切るようにして樹に莨火をなすりつけている。このセンチメンタリズムは、たしかに青春のものである。今日は、全国の多くの高校で卒業式が行われる。現代の高校生は、どんなふうにして学校への複雑な思いを表現するのだろうか。いや、そもそも寺山修司のころのように、屈折した心情を抱いている生徒が多くいるのだろうか。現代俳句協会編『現代俳句歳時記・無季』(2004)所載。(清水哲男)




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