さよなら、仙台。相原亨君、どうもありがとう。明日からページを模様替えの予定です。




2005ソスN2ソスソス28ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 2822005

 バースデー春は靴から帽子から

                           中嶋秀子

まには、こうした手放しの明るさも気持ちが良い。作者の「バースデー」の正確な日付は知らないが、まだ寒い早春のころだろう。誕生日というので、自分に新しい「靴」と「帽子」をおごった。身につけると、それらの華やいだ色彩から、自然に先行して「春」が立ち上ってきたように思われたと言うのである。ひとり浮き浮きしている様子が伝わってくる。何の変哲もない句のように思えるかもしれないが、俳句ではなかなかこうした美意識にはお目にかかれない。つまり、人工的な靴や帽子から自然現象としての春に思いが至るという道筋を、通常の俳句様式は通らないからだ。何から、あるいはどこから春が来るかという問いに対して、たいていの俳句はたとえば芽吹きであったり風の吹き具合であったりと、同じ自然現象に予兆を感じると答えるのが普通だろう。が、掲句はそれをしていない。このような表現はかつてのモダニズム詩が得意としたところで、人工と自然を相互に反射させあうことで、いわば乾いたハイカラな抒情の世界を展開してみせたのだった。一例として、春山行夫詩集『植物の断面』(1929)より一部を紹介しておく。「白い遊歩道です/白い椅子です/白い香水です/白い猫です/白い靴下です/白い頸(くび)です/白い空です/白い雲です/そして逆立ちした/お嬢さんです/僕のKodakです」。「Kodak」はアメリカ製のカメラだ。掲句の「バースデー」も「Kodak」の味に通じている。『玉響』(2004)所収。(清水哲男)


February 2722005

 離婚と決めし夫へ食べさす蜆汁

                           清水美津枝

語は「蜆(しじみ)」。蜆は一年中出回っているが、琵琶湖特産のセタシジミの旬が春のため、春の季語になったという。このことからしても、季語は京都を中心に考えられてきたことがわかる。「離婚と決めし」だから、まだ「夫(つま)」に離婚を切り出したわけではあるまい。自分ひとりの心のうちで決意した段階だ。したがって、いつものように「食べさ」せている。彼の好物なのか、それとも単に旬のものだから出したのか、いずれにせよ会話も無い食卓で「蜆汁」のカシャカシャと触れ合う小さな音だけがしている。春なのに、いや春だからこそ、なんとも侘しい気持ちなのだ。離婚してせいせいしたい気持ちと、そこに至るまでの長く重苦しいであろう時間への思いとがないまぜになって、ますます滅入ってくる……。むろんこの句は、現在進行形ではなく、離婚成立後に詠まれたものだろう。回想句だ。春が来て「蜆汁」を食べるたびに、作者はこのときのことを嫌でも思い出さざるを得ない。下衆のかんぐりをしておけば、離婚話を持ち出したのはこの日のことだったような気がする。なお、作者の苗字は私と同じだけれど、私の身内でもなければ知り合いでもありません。念のため(笑)。現代俳句協会編『現代俳句歳時記・春』(2004)。(清水哲男)


February 2622005

 紅梅や海人が眼すゝぐ二十年

                           谷川 雁

語は「紅梅」で春。前書きに「贈吾父」とあるから、父親に贈った句だ。この句については、作者の兄である谷川健一の説明がある。「わたしたちの父は眼科医だったのですが、病院の敷地に紅梅がありまして、父親はどこにも出かけないで、その紅梅を見ながら海人(あま)の眼ばかりをすすいでいたというわけです。海岸べりの土地でしたから、漁民が多かったのですが、水がよくなく眼を悪くする人が多かったのだと思います」。日々多忙を極めてはいるが、裕福ではない医者の姿が浮かんでくる。紅梅の季節がめぐってくるたびに、作者はそんな父親像を思い出し、優しい気持ちになったのだろう。私が谷川雁に会ったのは学生時代、三池炭坑闘争の最中であった。学園祭や何かで、何度か講演してもらった。第一印象は詩人というよりも策士という雰囲気で、しきりに学生運動などはヘボだと言われるのには閉口した。あるとき思い切って「でも、谷川さん。そんなに物事をひねくってばかり取らないで、素直に受け取ることも必要じゃないでしょうか」と聞いたことがある。と、雁さんは即座に「素直で革命なんかできるものか」と吐き捨てるように言った。思い返せば至言だとは思うけれど、しかしどうだろう、掲句の素直さは……。こういう一面は、決して私たち学生には見せようとしない人だったが、酔うと下手な冗談を連発したようなところは、どこかでこうした優しい心情につながっていたような気もする。「現代詩手帖」(2002年4月号)所載。(清水哲男)




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