生まれてから今日で24473日目になる。こうして日数計算すると長いんだか短いんだか。




2005ソスN2ソスソス15ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1522005

 生き死にや湯ざめのような酔い心地

                           清水哲男

生日ゆえ自作を。季語は「湯ざめ」で冬。誕生日が来ると、子供のころからあと何年くらい生きられるかなと思ってきた。平均寿命など知らなかった小学生のころには、人生およそ六十年を目安にして勘定したものだった。周囲の人たちの寿命が尽きるのは、だいたいそんな年齢だったからである。それが、いつしか昔の目安の六十歳を越えてしまった。この間に平均寿命の知識も得たが、これはその年に零歳の赤ん坊があと何年生きるかの目安なのであって、大人の余命とは直接には関係がない。今では男女ともに八十歳を越えたとはいっても、私の年代の平均余命をそこまで保証しているわけではないのだ。で、目安を失った六十歳以降からは、なんとなく「あと十年くらいかな」と勘定している。昨年も一昨年も、そして今年も「あと十年」と思うのは、数字的に減っていないので妙な話なのだけれど、まだ生命に未練たらたらな証拠のようなものだろう。常識では、これを希望的観測と言う。ただ、このところ毎年のように同世代の友人知己の死に見舞われていることからして、他方ではもういつ死んでもおかしくはない年齢に達したことを否応なく自覚させられてもいる。だから、掲句のように内向的になることもしばしばだ。でも、とにもかくにも今日で六十七歳になった。せめて今宵は楽天的に「あと十年は」と決めつけて、心地よい酔いのなかで眠りたい。(清水哲男)


February 1422005

 虎造と寝るイヤホーン春の風邪

                           小沢昭一

語は「春の風邪」。寒かったかと思うと暖かくなったりで、早春には風邪を引きやすい。俳句で単に「風邪」といえば冬のそれを指し、暗い感じで詠まれることが多いが、対して「春の風邪」はそんなにきびしくなく、どこかゆったりとした風流味をもって詠まれるケースが大半だ。虚子に言わせれば「病にも色あらば黄や春の風邪」ということになる。が、もちろん油断は大敵だ。軽い風邪とはいっても集中力は衰えるから、難しい本を読んだりするのは鬱陶しい。作者はおそらくいつもより早めに床について、「イヤホーン」でラジオを聞きながらうとうとしているのだろう。こういうときにはラジオでも刺激的な番組は避けて、なるべく何も考えないでもすむような内容のものを選ぶに限る。「次郎長伝」か「国定忠治」か、もう何度も聞いて中味をよく知っている広沢虎造の浪曲などは、だから格好の番組なのだ。ストーリーを追う必要はなく、ただその名調子に身をゆだねていれば、そのうちに眠りに落ちていくのである。そのゆだねようを指して、「虎造と寝る」と詠んだわけだ。病いの身ではあるけれど、なんとなくゆったりとハッピーな時間が流れている感じがよく出ている。それにつけても、最近めっきり浪曲番組が減ってしまったのは残念だ。レギュラーでは、わずかにNHKラジオが木曜日の夜(9.30〜9.55)に放送している「浪曲十八番」くらいのものだろう。『新日本大歳時記・春』(2000・講談社)所載。(清水哲男)


February 1322005

 茗荷竹普請も今や音こまか

                           中村汀女

語は「茗荷竹(みょうがたけ)」で春。茗荷の茎が伸びはじめたばかりの若芽。地面から頭を出しはじめたころ、枯葉、枯れ草に埋もれながら育ちつつあるところを採取するので、花茗荷(ハナミョウガ)のように白い素肌に紫色や淡い緑色が差した姿をしている。この時期の刺身のツマなどでもおなじみだ。朝餉時、味噌汁か酢の物か、作者は早春の香りを楽しんでいる。今朝も近所からは、このところつづいている「普請(ふしん)」の「音」が聞こえてきた。道普請などの土木工事ではなくて、おそらく家を建てているのだろう。何日か前までは騒々しかったその音も、気がつくと「今や」だいぶ「こまか」になってきた。完成も間近で、最後の仕上げに入ってきたことが知れる。茗荷竹の早春の香りと新築家屋の仕上げの音。この目には見えない取り合わせに、作者は本格的な春の訪れを予感して明るい気持ちになっている。「音こまか」の発見に、うならされる。さすが汀女だ。以下脱線するが、茗荷といえば東京の文京区に「茗荷谷(みょうがだに)」という地名がある。調べてみたら、昔はやはり茗荷畑が多く見られたことからの命名のようだ。現在、その名は営団地下鉄丸ノ内線の駅名と茗荷坂(「切支丹坂」とも)の名に残っているのみで、往時の畑などはカケラも想像しようもないほどに変貌してしまっている。『女流俳句集成』(1999・立風書房)所載。(清水哲男)




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