昨日はスーパーボウルを見た。ハーフタイムショーのポール・マッカートニーも絶品也。




2005ソスN2ソスソス8ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 0822005

 いそまきのしのびわさびの余寒かな

                           久保田万太郎

語は「余寒(よかん)」で春。立春以後、まだのこる寒さのことを言う。暦の上では春なのだから、そろそろ暖かくなってもよいはずだがと期待するだけに、よけいに寒さが恨めしくなる。だがなかには作者のように、従容として寒さに従う人もいる。従うどころか、春過ぎの寒さに粋なものだと感じ入っている。「いそまき」は「磯巻き」で、要するに海苔で巻いた食物のことだ。磯巻きせんべいがポピュラーだが、句の場合にせんべいではいささか色気に欠けるだろう。たとえば薄焼きタマゴを高級海苔で巻いた料亭料理などが、私にはふさわしいように感じられる。一箸取って口に含むと、隠し(しのび)味的に入れられた「わさび」の味と香りがほんのりと口中に漂ったのだ。その微妙で心地よい味と香りが、余寒の情緒に溶けていくように想われたというのである。いかにも万太郎らしい感受性の光る句柄だが、世に万太郎の嫌いな人はけっこういて、その人たちはこうしたことさらな粋好みを嫌っているようだ。かくいう私も嫌いというほどではないが、あまりこの調子でつづけられると辟易しそうではある。たまに、それこそ他の作者たちの多くの句のなかに二、三句はらりと「しのばせて」あるくらいが、ちょうど良い案配でしょうかね。『新歳時記・春』(1989・河出文庫)所収。(清水哲男)


February 0722005

 うすぐもり瞰れば京都は鮃臥す

                           竹中 宏

語は「鮃(ひらめ)」で冬。「瞰」には「み」の振仮名あり。「俯瞰(ふかん)」などと使われるように、「瞰る」は広く見渡すの意だ。気にしたこともなかったけれど、そういえば「京都(市)」の形は「鮃」に似ていなくもない。南端の伏見区を頭に見立てれば、左京区の北部が尾のように見える。学生時代に私の暮らした北区は、さしずめ腹部ということになろうか。といって、作者がそのことを言っているとは限らない。むしろ形ではなく質感的に「鮃」と感じたのかもしれない。「瞰る」についても空から鳥の目で京都の形状を瞰たのではなく、ビルの上階あたりからの眺めを感覚的に全体像としてとらえたのだろう。はっきりしない天候の日に、そうした高いところから何気なく市街を見下ろして、咄嗟に「鮃」がだらっと寝そべっているようだと感じたのだ。街全体がぬめぬめとしていて、およそ活力というものに欠けている。冬場は観光客も途絶えて、京都の最も寂しい季節だから、鮃が臥(が)しているようだととらえても、ことさらに突飛な比喩ではないのだ。暗鬱と言っては大袈裟に過ぎようが、どこか人の心をじめじめと浸食してくるような鬱陶しさが、この季節の京都の情景には漂っている。だが、そのじめじめをくどく言わず、逆に句的にはからりとさばいてみせたところに、作者の腕の冴えを感じた。感心した。『アナモルフォーズ』(2003)所収。(清水哲男)


February 0622005

 紅椿悪意あるごと紅の濃し

                           渡辺梅子

語は「椿」で春。私は椿にこういう印象を受けたことはないけれど、わかるような気がする。当然の話だが、花を見ての受け取りようは人さまざまだ。人さまざまである上に、さらには見る人のそのときの身体的精神的コンディションによっても、印象は微妙に左右されるだろう。作者は紅い椿に目を止めた。しかし見るほどに、いやに「紅」の濃いのが気になってきた。さながら何か邪悪な思いをゆらめかすように、こちらの目を射てくるのだ。目をそらそうとしても、かえって吸い寄せられてしまう。何だろうか、この紅の毒々しさは。しばしその場に立ちすくんでいる作者の姿が彷佛としてくる。故意に「紅」と「紅」とを重ねた詠み方の効果は大だ。句を読んで花ではないけれど、いつだったかイラストレーターの粟津潔さんが言ったことを思い出した。「鳩って奴は、よくよく見ると気味が悪いねえ」。それまで私はそんなことを思ったこともなかったのでびっくりしたが、後にこの話を思い出してよくよく見たら、なるほど妙に気味が悪かった。粟津さんには平和の象徴としての鳩のデザインが、たしか何点かあったはずだが、あれらも本当は気味悪がりながら描いたのだろうか。聞いてみようと思いつつも、機会を失してきた。でも、たぶんそうではあるまい。ある日ある時に何かの拍子で、対象がとんでもない見え方をすることがあるとするのが正しいのではなかろうか。作者にとっての「紅椿」も、むろんだろう。が、奇妙に後を引く句だ。『柿落葉』(1991)所収。(清水哲男)




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