日脚伸ぶ。少しずつ夜明けも早くなってきました。今日の東京の日の出時刻は6時47分。




2005ソスN1ソスソス25ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 2512005

 死後初の雪見はじまる縁の家

                           摂津幸彦

語は「雪見」。平城京の昔には年中行事とされていた。高貴な人たちが初雪を賞でたわけだが、時代を経るにつれて庶民のささやかな楽しみの一つに転化した。行われるのも、とくに初雪の日とは限らない。掲句の場合も、友人知己が集っての例年当季の酒盛り程度の軽い意味だろう。自分が死んだ後も、当然のように恒例となった雪見の会が開かれている。いや、開かれるはずである。当たり前といえば当たり前のことながら、そこに自分がもう出られないと予感することは淋しくもたまらない気持ちだ。明らかに、このときの作者は自分の死期が近いことに気がついている。最近「摂津幸彦論」(「俳句」2005年1・2月号)を書いた仁平勝によれば、夫人から聞いた話として「幸彦はこの時期すでに、自分が癌であることをうすうす感づいていた」ようである。しかし、このエピソードを知らなくても、十分に作者の気持ちは伝わってくる。読み解くキーは「縁(私はあえて字余りとなる「えにし」と読んでおく)」だ。誰だって通常出入りするのは「縁の家」に決まっているから、普段はことさらに「縁」を言う必要は無い。だが作者は、あえて「縁」と付けている。すなわち、生きていてこその「縁」を強く意識し、いとおしむ気持ちが激しいからこその措辞と受け取らねばならない。したがって、近い将来にその「縁」が断たれてしまう絶望的な予感のなかで、生への執着と諦念とが交錯し明滅している一句と読めるのである。『鹿々集』(1996)所収。(清水哲男)


January 2412005

 凍みるとはみちのくことば吊豆腐

                           井桁蒼水

期「凍豆腐(しみどうふ)」の項に分類しておく。ただし、JAS(日本農林規格)では「凍(こお)り豆腐」を正式な名称としている。作者の居住地がわからなくて残念だが、作者がお住まいのあたりでは「吊豆腐」と呼んでいるのだろう。「凍豆腐」の呼称があまりに有名なことから、実はこの呼び方は「みちのく」という一地方の方言であって、本当はここらで言うように「吊豆腐」と呼ぶべきだと主張している。俳句で食品の名前に文句をつけているのは珍しいし、面白い。言われてみると、その通りだ。凍豆腐製造は元来が和歌山県高野山の「高野豆腐」に発していることに間違いは無く、私の田舎(山口県)でもごく普通に「こうやどうふ」と言っていた。それが江戸期や明治大正期の全国的に通用する名前だったようだが、いついかなる理由をもって凍豆腐のほうが一般的になったのだろうか。たいていの名産品だと、特産地が移動したとしても発祥の地の呼び名を一部分でも踏襲しそうなものだけれど、この食品に限っては、突然変異的(としか思えない)に名称のポピュラー性が高野山から陸奥にシフトされてしまったようだ。寒夜に表に吊るして凍らせるイメージが、高野山よりも陸奥の厳寒にこそふさわしいからだろうか。それにしても、高野豆腐の名称は今でも通じてはいるものの、言葉の世界にも不思議なことが起きるものだ。『新歳時記・冬』(1989・河出文庫)所収。(清水哲男)


January 2312005

 某日やひらけば吹雪く天袋

                           鳥居真里子

語は「吹雪く」で冬。「天袋(てんぶくろ)」は、和室の高いところ(押し入れの上部にある場合が多い)に設けられた収納スペースのこと。踏み台がないと開けないような高さなので、頻繁に出し入れする物の収納には向いていない。季節用品とか、卒業証書のように使わないけれど捨てられない記念の物などを仕舞っておく。だから、日頃はほとんど意識することの無い空間だ。それが「某日」、ふっと思い起こされた。で、開いてみたら中が「吹雪」いていたというのである。が、現実にはむろん作者は開いていない。あそこを「ひらけば」、きっと吹雪いていそうな気がしたということだ。想像の世界を詠んでいるわけだだが、想像だからどんな突飛なイメージでもよいということにはならないところが、俳句的喩の難しさだろう。この場合には、天袋と吹雪との取り合わせが、無理なくつながっている。天袋も吹雪も、この国の暮らしの土俗的な暗さの部分で溶け合っている。そしてまた、句からは天袋やタンスの引き出しなどを開けると、そこにはこの世ならぬ別世界があったという伝承の物語もいくつか想起される。そういうことどもが絡まりあって、掲句が決して安易な思いつき的着想に発していないことがうかがえるのだ。「俳句研究」(2005年2月号)所載。(清水哲男)




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