祖母直伝の方法で母の煮る黒豆は最高だった。皺一つよらせずふっくらとまろやかに…。




2004ソスN12ソスソス19ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 19122004

 賀状書く心東奔西走す

                           嶋田摩耶子

語は「賀状書く」。私もそうだが、今日あたりは賀状書きに専念する人が多いだろう。そういう日に読むと、この句はまさにどんぴしゃりだ。「東奔西走(とうほんせいそう)」には、二つの意味が重ねあわされていると思う。一つは、賀状の宛先は全国各地に散らばっているので、それぞれの地域に束の間あわただしく思いを馳せての「東奔西走」である。もう一つは、賀状書き以外の年用意のことが気になってのそれだ。賀状書きも大事だけれど、新年を迎えるまでにやるべきことが他にもたくさんある。書きながら、ついつい他のあれもこれもと「心」が飛び回り、なかなか落ち着けない状態を言っている。むしろ後者の意味に、句の比重がかけられているような……。もっとも、最近は宛名をプリンターで刷りだしている人が増えてきたので、前者のような心持ちは薄れているだろう。私は宛先のみ、いまだに手書きだ。受け取る相手に失礼というよりも、どこかを手書きにしないと出した実感が残らないからである。手応えが無い。さて、今日は何枚書けるだろうか。年内の原稿仕事も何本か残っていて、しかも締め切り日が過ぎているのもあって、きっと「心」は大いに「東奔西走」することだろう(笑)。『合本俳句歳時記・第三版』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)


December 18122004

 クリスマス妻のかなしみいつしか持ち

                           桂 信子

前の句だ。結婚して、何廻り目かの「クリスマス」。気がついてみたら、乙女時代のちょっと浮き浮きするような気分とは程遠くなっていた。結婚前には予測もつかなかった諸々の事情が身辺に生じてきて、もはやクリスマスをロマンチックに捉えることなどできない心境だ。その「かなしみ」。現代とは違い、昔の嫁は様々な社会的なしがらみにしばられていたので、精神的にも自由であることは難しかったろう。ましてや、クリスマスの頃は多忙を極める年の瀬だ。普段以上に何かと負担がかかり、ハッピー・ホリデーなどは完全に他人事でしかない。昔の「妻」が世間をはばからずに休めるのは、年も明けてからの女正月(「小正月」とも。冬の季語)くらいのものであった。ただ、当時は時局も戦争へと雪崩をうっていたので、女正月を祝う風習も形骸化していたのではあるまいか。掲句を詠んでからしばらくして、作者は夫に先立たれている。「夫逝きぬちちはは遠く知り給はず」。珍しい無季の句で、それだけに茫然としている様子が直裁に伝わってくる。また一方では、遠くにいる両親に早く知らせねばと、気丈な気遣いが芽生えているのが哀しい。作者は、一昨日(2004年12月16日)九十歳で亡くなられた。合掌。『月光』(1948)所収。(清水哲男)


December 17122004

 天気図のみな東向く雪だるま

                           内田美紗

語は「雪だるま(雪達磨)」。正規の「天気図」ではなく、新聞などに載る天気予報図だ。天気の状態を晴天ならば太陽、曇天なら雲、雪なら「雪だるま」といった具合に、小さな絵をつけてわかりやすくしてある。その雪だるまが、みな「東」を向いているというのだ。もともとの画像が一つだから、何個並ぼうとも同じ方角を向いていて当たり前なわけだけれど、なんだかお互いが示し合わせて東を向いているように見えて可愛らしくもあり、可笑しくもある。と、ここまでの解釈で止めてもよいのだが、しかし、もう一歩進めてみるのも面白い。というのも、私の知る限り、この種の天気図で東向きの雪だるまを見たことがないからである。あらためていくつかの予報図を調べてみたが、みな正面を向くか、心持ち西を向いているものばかりだった。正面向きはよいとして、心持ち西向きなのには理由がある。日本全図で雪の多い地方は地図の東側(右側)にあるから、雪だるまマークは当然東側で多用される。したがって、雪だるまが東(右)を向いていると、みな日本各地にそっぽを向く感じになってしまう。そこでマークを描く際には、やはり秩序感覚からして西向きにしたほうが良いという意識が働くはずだ。だから私などは掲句を読んだ途端に、えっと思った。こりゃあ相当に偏屈なおじさんが作った図だなと感じたのだ。実際に東向きのマークを載せた天気図があるのだろうか、あるとすれば極めて珍しい。それとも、これは作者が素知らぬ顔で読者に仕掛けた悪戯なのだろうか。ご当人に聞いてみたい気がする。『魚眼石』(2004)所収。(清水哲男)




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