今日なすべきこと、年賀状作り。なすべからざること、暴飲。あっ、でも余白忘年会だ。




2004ソスN12ソスソス18ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 18122004

 クリスマス妻のかなしみいつしか持ち

                           桂 信子

前の句だ。結婚して、何廻り目かの「クリスマス」。気がついてみたら、乙女時代のちょっと浮き浮きするような気分とは程遠くなっていた。結婚前には予測もつかなかった諸々の事情が身辺に生じてきて、もはやクリスマスをロマンチックに捉えることなどできない心境だ。その「かなしみ」。現代とは違い、昔の嫁は様々な社会的なしがらみにしばられていたので、精神的にも自由であることは難しかったろう。ましてや、クリスマスの頃は多忙を極める年の瀬だ。普段以上に何かと負担がかかり、ハッピー・ホリデーなどは完全に他人事でしかない。昔の「妻」が世間をはばからずに休めるのは、年も明けてからの女正月(「小正月」とも。冬の季語)くらいのものであった。ただ、当時は時局も戦争へと雪崩をうっていたので、女正月を祝う風習も形骸化していたのではあるまいか。掲句を詠んでからしばらくして、作者は夫に先立たれている。「夫逝きぬちちはは遠く知り給はず」。珍しい無季の句で、それだけに茫然としている様子が直裁に伝わってくる。また一方では、遠くにいる両親に早く知らせねばと、気丈な気遣いが芽生えているのが哀しい。作者は、一昨日(2004年12月16日)九十歳で亡くなられた。合掌。『月光』(1948)所収。(清水哲男)


December 17122004

 天気図のみな東向く雪だるま

                           内田美紗

語は「雪だるま(雪達磨)」。正規の「天気図」ではなく、新聞などに載る天気予報図だ。天気の状態を晴天ならば太陽、曇天なら雲、雪なら「雪だるま」といった具合に、小さな絵をつけてわかりやすくしてある。その雪だるまが、みな「東」を向いているというのだ。もともとの画像が一つだから、何個並ぼうとも同じ方角を向いていて当たり前なわけだけれど、なんだかお互いが示し合わせて東を向いているように見えて可愛らしくもあり、可笑しくもある。と、ここまでの解釈で止めてもよいのだが、しかし、もう一歩進めてみるのも面白い。というのも、私の知る限り、この種の天気図で東向きの雪だるまを見たことがないからである。あらためていくつかの予報図を調べてみたが、みな正面を向くか、心持ち西を向いているものばかりだった。正面向きはよいとして、心持ち西向きなのには理由がある。日本全図で雪の多い地方は地図の東側(右側)にあるから、雪だるまマークは当然東側で多用される。したがって、雪だるまが東(右)を向いていると、みな日本各地にそっぽを向く感じになってしまう。そこでマークを描く際には、やはり秩序感覚からして西向きにしたほうが良いという意識が働くはずだ。だから私などは掲句を読んだ途端に、えっと思った。こりゃあ相当に偏屈なおじさんが作った図だなと感じたのだ。実際に東向きのマークを載せた天気図があるのだろうか、あるとすれば極めて珍しい。それとも、これは作者が素知らぬ顔で読者に仕掛けた悪戯なのだろうか。ご当人に聞いてみたい気がする。『魚眼石』(2004)所収。(清水哲男)


December 16122004

 ゆきひらに粥噴く大雪注意報

                           大森 藍

行平鍋
日も北国のどこかでは、こういう情景がありそうだ。「ゆきひら」といっても、実物を使っている人ですら、もう名前を知らない人のほうが多いかもしれない。「行平鍋」の略。在原行平が須磨で、海女に潮をくませて塩を焼いた故事にちなむという。陶製の平鍋で、把手(とって)、注口があり、蓋をそなえたもの。金属製のものもある。子供が風邪でも引いたのだろう。何か食べやすく暖かいものをと、手早くゆきひらで「粥」を作ってやっている。煮えてきて威勢良く噴き上がる様子を見ている作者に、テレビからかラジオからか、「大雪注意報」が聞こえてきた。大雪でも大雨でも、避けようもない自然現象に閉じ込められようとするとき、人と人との親和力は増してくるようである。自然の猛威のなかでは人は無力に近いから、お互いに寄り添う気持ちが高まってくるのだ。大人であれば保護者意識が高まり、子供は逆に被保護への気持ちが強くなるとでも言うべきか。見知らぬ人同士でさえ、なんとなく親しみを覚えたりする。作者の場合には、粥を食べさせる相手が病人だから、なおさらだ。といって、こうした意識には悲壮感はあまり無く、むしろ身近に保護すべき人がいることに安らぎの念すら湧いてきたりするものだ。粥は、そろそろ出来上がる。早く子供に出してやって、美味しそうに食べる顔を見てみたい。『遠くに馬』(2004)所収。(清水哲男)




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