年鑑の季節。子供の頃『少年朝日年鑑』が欲しくて買えなくて大人になって買いました。




2004ソスN11ソスソス21ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 21112004

 亡き友は男ばかりや霜柱

                           秋元不死男

語は「霜柱(しもばしら)」で冬。言われてみれば、私の場合もそうだ。「友」の範囲をそんなに親しくなかった同級生や同世代の知り合いにまで広げてみても、やはり「男ばかり」である。女性は長生きという定説が、私などの狭い交友範囲でも実証されている恰好だ。句の「霜柱」は、自分より早く死んで行った男友達の(散乱した)墓標に擬しているのだろうか。寒い朝にじゃりっと立っている彼らも、日が昇ってきてしばらくすると、あたりをべとべとにして溶けてゆく。すなわち、霜柱の消え方は決して潔くはない。この世に大いに未練を残して、いやいや消えて行くように思える。ここまで読む必要はない句なのだろうが、少なくともあのじゃりじゃりと凍った感じは、人の心をいわば毛羽立たせる。したがって、作者のような感慨も自然に浮かんできたのだろう。子供のころは、ときに長靴の買えなかった冬もあって、霜柱の道をゴム草履に素足で登校したこともある。私だけじゃない。そんな子は、たくさんいた。当時を振り返れば、しかし貧しかったことを嘆くよりも、元気だったなあと思う気持ちのほうが、いまは強い。「子供は風の子」というけれど、本当だ。子供の生命力は凄いんだ。そんなゴム草履仲間も、もう子供とは言えなくなった大人へのトバグチで、何人かが霜柱が溶けるように死んでいった。『新歳時記・冬』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


November 20112004

 山風や雪女より北に棲み

                           馬崎千恵子

語は「雪女」で冬。作者は北海道在住。ああ、こういう発想は私などには思いもつかないなと感じ入った。まず、ちょっとした想像では出てこない。むろん「雪女」は想像上の人物ではあるが、この句はむしろ実感の産物なのだ。雪女は、いったいどこに住んでいるのだろうか。雪国以外の人は、ただなんとなく不特定の寒い地方にいるようだとしか思っていないけれど、実際に雪深い土地に暮らしていれば、彼女の住む環境をある程度は具体的に特定して考えられるのだと思う。具体的には、だいたいどこそこのような感じの山里だろうという具合に……。そもそも雪女の想像そのものが、そうした具体的な豪雪の地から生まれたものなのだからだ。しかるがゆえに、彼女よりもまだ自分は「北に棲(す)み」と詠んでも、すらりと自然体である。掲句を、北国の人が読めば、それこそすらりと作者の環境が思われて納得できるにちがいない。似たような話を、北海道出身の草森紳一に聞いたことがある。北海道人は意識と無意識との境目あたりで、「本土」の人よりも「上」の方にいると思っているようだという。正確には北方に住んでいるわけだが、日本地図からの影響で、イメージ的にそう発想してしまうらしい。そのときも面白い話だと思ったが、掲句を読んでなおさらに、環境による人間の先験的な発想の違いについて考えさせられた。「俳句研究」(2004年12月号)所載。(清水哲男)


November 19112004

 物少し状ながながと歳暮かな

                           島田雅山

語は「歳暮」で冬。まずは、この句が載っていた歳時記より「歳暮」の定義を。「年中行事の一。歳末に際し既往の好誼を相互に感謝し合ふため贈物を交換したり、無異息災を祝ふために年忘れと称し親戚・知己・同僚間に酒宴を設けることをいふのだが、後に転じて物を贈ることのみを歳暮といふやうになつた。正しくは歳暮の礼である。酒・煙草・砂糖・新巻その他デパートの商品券などが用ゐられる」。したがって忘年会などのほうが、歳暮の本義に適っている。ところで物を贈るにしても、昔は掲句のように必ず「(書)状」を添えるのが礼儀であった。あくまでも、歳暮は「交流」を感謝するしるしだからである。他人のことは言えないけれど、いまでは大概の人がデパートから送りっぱなしにして済ませてしまう。句の意味は一見明瞭に見えて、実はそうでもない。添えられた手紙ばかりが長くて、なんだい「物」はたったのこれっぽっちか……。などと読むのは間違いだろう。この句の時代背景には、戦後の物資不足がある。この国全体が貧しかった時代だ。そんななかでも何とか工面して、律儀に歳暮を届けてくれた。相手は「物少し」を大いに気にして、せめて感謝の言葉だけでも丁重にと長々と書いて寄越したのである。それが作者には痛いほどわかるので、こう詠んだというわけだ。歳暮を通してのいわば社会風刺の句である。『俳句歳時記・冬』(1955・角川文庫)所載。(清水哲男)




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