富山行き。越後湯沢より、地震被害からようやく復旧した「ほくほく線」経由で向かう。




2004ソスN11ソスソス5ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 05112004

 霧の灯に所持せるものを食べをる人

                           中村草田男

語は「霧(きり)」で秋。昔は春の霞(かすみ)も霧と言ったそうだが、現在は秋のみ。霞に比べると、霧にはどこか冷たい印象がある。「霧の灯」とあるから、戸外の情景だ。街灯だろうか、霧にかすんだ灯の下で、何か食べている「人」がいる。夜間工事の人とも考えられるが、私には浮浪者のように写る。作句は昭和十九年、かつての大戦たけなわの頃だ。浮浪者といっても、だから空襲で焼けだされて帰る家を失った人なのかもしれない。食糧難時代だったので、そういう人は本当に大変だったろう。食べているのは、何だろうか。握り飯かパンか、それとも芋の類だろうか。などということは、作者の眼中にはない。何でもよいけれど、とにかく彼は大切に「所持せるもの」を肌寒い道ばたで食べているのであって、あたり気にせずのその一心不乱な様子が、すれ違ったときの印象として心に深く焼き付けられたのである。あの時代ほどに「人は食わなければ生きていけない」と、誰もが肝に銘じたことはなかっただろう。そんな頃だったから、食べ物に向かったときのおのれ自身もまた彼と同じようなものだと、作者はつくづく「人」というものの哀れに感じ入っているのだ。「霧の灯」にロマンチシズムのかけらもなかった時代が、この国の現実としてあったということを、掲句はかっちりと証言している。『来し方行方』(1947)所収。(清水哲男)


November 04112004

 秋暑し五叉路を跨ぐ歩道橋

                           比田誠子

の上の秋は今週でお終い。七日は、はや「立冬」だ。しかし、動くと汗ばむような陽気の日がまだしばらくは断続的にあらわれる。「秋暑し」の掲句はドカンと「歩道橋」を据えてみせ、それも五叉路を跨いでいるのだから、想像するだに暑そうである。身体的にも暑そうだが、それ以上に神経的にこたえる。夏の暑さなら覚悟しているので身体的な反応ですむけれど、秋の暑さの中だとむしろ余計に神経に障るので、辛いものがある。したがって、「秋暑し」の感覚がよく生かされている作品だと思う。実際、五叉路くらいの分かれ道を跨ぐ歩道橋をわたるのは、厄介だ。東京の飯田橋駅前の歩道橋を思い出したが、あそこは五叉路だったか何叉路だったか、とにかくよく注意してわたらないと、とんでもない所に下りてしまう羽目になる。たまに出かけると、必ずといってよいほどに間違える。まったく神経によろしくない歩道橋だ。それに歩道橋は、車優先思想の先兵みたいなものだから、まったくもって人間に失礼な建造物なのである。日本で最初に歩道橋ができたのは、たしか大阪駅前だったと記憶する。その昔の新幹線のキャッチコピーに「ひかりは西へ」というのがあった。これに習って言えば「失礼は西から」だ。なんてことを言うと、大阪人に張り倒されるかしらん(笑)。俳誌「百鳥」(2004年11月号)所載。(清水哲男)


November 03112004

 色刷りの朝刊多し文化の日

                           小路智壽子

和二十年代も後半の句だろう。いまでこそ新聞の写真や絵が「色刷り」になっていても珍しくはないけれど、当時は元日などの特別な日しかカラーは使われなかった。コストが高くついたのと、印刷技術がまだ未熟で鮮明に色彩を表現できなかったせいだ。アタラシもの好きの私などは、それでもワクワクして眺めたものである。あまりに実際の色とかけ離れた写真とわかっても、いつもひいき目で見ては、凄いなアと感激していた。掲句は駅売りスタンドの新聞各紙を眺めたときの感想だろうが、これぞ文化であり「文化の日」にふさわしい光景だと心を暖かくしている。「文化」という言葉それ自体に、人々がまだ希望の灯を感じていたころの実感なのだ。文化包丁だとか文化鍋だとか、とにかく「文化」の名をつけてあればありがたいような気になった時代だった。文化湯なんて銭湯もあったっけ。さしずめ「長髪アタマを叩いてみれば、ブンカブンカの音がする」という時代だった……。それが、いまではどうだろう。「文化」は横文字の「カルチャー」にすっかり席をゆずり、今日が「文化の日」だよと言われても、なんだかピンと来なくなってしまった。遠からず「カルチャー・デー」なんて呼ぶようになる日が来るのかもしれない。とまれ、戦後文化は人間の上っ面だけをなぞったような平板なものだった。名称が改変されたとしても、誰もカルチャー・ショックなど受けないだろう。『合本俳句歳時記・第三版』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)




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