11月。早くも今日から年賀状が発売される。あっという間に今年も終わってしまいそう。




2004ソスN11ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 01112004

 駅吊りの秋物語時刻表

                           渡邊きさ子

のところ、私にしては珍しく旅が多いので、しばしば「時刻表」とにらめっこをしている。仕事がらみだから行楽気分にはほど遠いけれど、時刻表を見ているうちに、目的地まで以外の路線を追っていたりすることがある。時間がもう少しあれば、ちょっと先の温泉地まで足を伸ばせるのになどと、埒もないことを考える。句の時刻表は「駅吊り」だから、作者は既に旅行中なのだろう。あるいは、これから出発なのかもしれない。いずれにしても駅の時刻表を見上げて、むろん自分だけのこれからの旅程を組み立てている。で、そのうちに気がついたことには、この同じ時刻表を眺めている人には、それぞれに自分とは別の目的や事情があるということだった。つまり、それぞれの人にはそれぞれの「物語」がある……。当たり前といえば当たり前だが、あらためてそう意識してみると、駅に吊られている単なる時刻表も、いろいろな物語の発端になったり展開点であったりするわけだ。そのような不特定多数の物語をひっくるめて、「秋物語」とくくったところが美しい。この句を知った後で駅の時刻表を見上げる人は、句の良さがいわば体感できるのではあるまいか。他ならぬ私は、週末に遠出する予定があります。私なりの「秋物語」はひどく散文的になりそうですが、それでも旅は旅。いくつかの楽しいことが待っているかもしれません。『野菊野』(2004)所収。(清水哲男)


October 31102004

 紅葉見のよりどりの赤 絶交

                           志賀 康

近「絶交」という言葉を聞かなくなった。それほどみんなが仲良くなったというのではなくて、そもそも絶交宣言するような深い交わりの相手がいなくなったからではなかろうか。ほどほどの付き合いには、絶交などあり得ない。また、男女の別れに絶交とは言わないようだから、相手はすべて同性だ。よほどのことがないかぎり、同性の友人と決別する気持ちにはなりそうもないから、絶交のほうが男女の別れよりも大事(おおごと)かもしれない。さて、どういう謂れからかは知らないけれど、昔から絶交状は「赤」で記すことになっている。掲句は、そのことに引っ掛けてある。それにしても「紅葉」を見ながら「絶交」を思うとは、意表を突かれた。実感句ではなく、言葉の面白さをねらった作だと思うが、なかなかの飛躍ぶりである。たしかに「よりどりの赤」であり、どの色で奴に絶交状を書いてやろうかしらんと、どこか舌なめずりをしているような感じもあって、第三者にはユーモラスに写る。つまり絶交状にもスタイルがあるし、そこには相手に馬鹿にされないよう、恋文とはまた違った意味での細心の注意を必要とするわけである。幸いにして書いたことはないけれど、いざとなるとこりゃ難しそうだ。『山中季』(2004)所収。(清水哲男)


October 30102004

 三日月ほどの酔いが情けの始めなり

                           原子公平

語は「(三日)月」で秋。長い酒歴のある人でないと、こういう句は詠めまい。『酔歌』という句集があるほどで、作者は無類の酒好きだった。「三日月ほどの酔い」とは、飲みはじめのころの心的状態を言っている。ほろ酔い気分の一歩手前くらいの心地で、酔っているとは言えないけれど、さりとて全くのシラフとも言えない微妙な段階だ。おおかたの酒飲みは、この段階でぼつぼつ周囲の雑音が消えてゆくことが自覚され、自分の世界への入り口にあるという気持ちが出てくる。すなわち、シラフのときには自制していたか抑圧されていて表には出さなかった(出せなかった)「情け」が動き「始め」るというわけだ。「情け」といっても、いろいろある。「情にほだされ」て涙もろくなることもあるし、逆に「情が高ぶって」怒りやいじめに向かうこともある。加えて、曰く言いがたい酒癖というものもある。だが、いずれにしても、「知」よりは「情」が頭をそろそろともたげてくるのがこの段階なのであって、飲み始めた当人にその情がどこに向かうのかがわかりかけるのも、この段階だ。作者は今宵もひとりで飲みながら、長年にわたる飲酒を通じて生起した様々な心的外的な出来事を振り返って、すべての「始め」はこのあたりにあったのだなと合点している。「情けは人のためならず」と言うが、酒飲みの情はその日その日の出来心によるから、人に情けをかけたとしても、必ずしも自分のためになるとは言いがたい。酒好きには、しいんと身につまされる一句だろう。『夢明り』(2001)所収。(清水哲男)




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