我が西洋長屋に防犯カメラが取り付けられた。無いよりマシだが、プライバシー問題も。




2004ソスN9ソスソス23ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 2392004

 をさな子はさびしさ知らね椎拾ふ

                           瀧 春一

語は「椎(の実)」で秋。ドングリの一種と言ってよいと思うけれど、椎は生でも食べられる。でもとにかく色合いが地味なので、それだけに淋しい感じのつきまとう実である。椎の木の生えている場所自体、陰気な感じのするところが多かった。そこらあたりの雰囲気を巧みに捉えたのが、虚子の「膝ついて椎の実拾ふ子守かな」だ。秋も日暮れに近いのだろう。けなげな「子守」の淋しくも哀れな様子が、目に浮かぶようだ。掲句もまた、椎の実にまつわる寂寥感を詠んでいるのだが、しかし虚子のように直球を投げてはいない。かなりの変化球だ。「さびしさ」を知らない「をさな子」が一心に椎の実を拾っている。しかしそれが単純に微笑ましい図かというと、そうではなくて、作者はどこかに淋しさ哀れさを感じてしまうと言うのだ。「知らね」は「知らねども」の略として良いと思うが、純粋無垢の幼児のひたむきな行為を見ていると、身につまされるときがある。かつての自分もこうであったはずだが、やがて物心がつき自我に目覚め、人生の喜怒哀楽を知り始めると、とても純粋ではいられなくなる道程を知っているからだ。無心の幼児。このころが結局いちばん良い時期かもしれないなあと思うと、涙ぐましくなってくる。その感情を、幼児の拾う椎の実の淋しさが増幅するのである。センチメンタリズムを詠ませると、この作者はいつも格別な才気を発揮した。『合本俳句歳時記』(1974・角川書店)所載。(清水哲男)


September 2292004

 灯火親し英語話せる火星人

                           小川軽舟

語は「灯火親し(む)」で秋。そろそろ、この季語が似合う季節になってきた。本意では本を読むための「灯火」とは限らず、一家団欒などの灯でもよいのだが、読書を詠むときによく使われてきた。掲句も、読書の句だ。いわゆるSFものを読んでいるのだろう。最初は何気なく読み進めていたのだが、そのうちにおやっと気がついた。登場してきた火星人が、当たり前のように「英語」を話しているではないか。ここで読者には作者が英語の小説を読んでいることが知れるが、考えてみれば確かに変である。小説だから仕方が無いと言えばそれまでだけれど、いかに優れた知能の火星人とはいえ、一度も地球上で暮らしたことが無い者に、地球人の言葉が話せるはずは無い。言葉とは、そういうものだ。火星人に地球人と同じような構造の言葉があるわけはないし、仮に話すというコミニュケーション手段があるとしても、地球人同様の環境と生来的に備わった五感とがなければ話は通じないだろう。十数年前にコンピューター雑誌で、宇宙人との交流手段を真剣に研究している人の論文を読んだことがある。彼は、むろん地球人的な意味での言葉の概念を捨てるところから出発していた。当然である。それはともかく掲句の作者は、そうしたことに気づいてにやりとしたのだ。苦笑でもあるが、しかしそこがまた楽しいなという微笑でもある。これからは夜が長くなりますね。ENJOY! 『俳句研究』(2004年10月号)所載。(清水哲男)


September 2192004

 秋風やたためば小さき鯨幕

                           松崎麻美

夜か葬儀の後片付けだろう。「鯨幕(くじらまく)」は、黒と白の布を一幅おきに縦に縫い合わせ、上下に黒布を横に渡した幔幕(まんまく)のことだ。広げて吊るしてあるときには大きく見えるけれど、「たためば」意外にもずいぶん小さかったという実感句である。書いてあるのはそれだけだが、ここにはむろん人の生命のはかなさへの感懐が込められている。故人の死を悼み悲しむというよりも、あっけらかんと掻き消えてしまった生命の意外な小ささに胸を突かれたのだ。したがって吹く秋風が感傷を誘うというよりも、むしろ空虚空爆の世界へと作者を連れて行ったのではあるまいか。「鯨幕」で思い出したが、子供の頃には「鯨」のつく道具や品物がいろいろとあった。和裁で使う「鯨尺(くじらじゃく)」などはたいていの家庭にあったし、昼夜帯を意味した「鯨帯(くじらおび)」とか、「鯨身(くじらみ)」は芝居で使う刀のことを言った。本物の鯨の肉は戦後の食糧危機をある程度は救ってくれたし、それほどに鯨と日本人の関係が密だった証拠だろう。それが昨今では周知のように鯨が遠い存在になり、連れて鯨のついた物の名前も忘れられつつある。誰でも見知っている句の「鯨幕」にしても、ちゃんと名前を知っている人は、もうそんなに多くないのではなかろうか。『射手座』(2004)所収。(清水哲男)




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