明日のヤクルト阪神戦(神宮球場)は大入りになる気がする。「古田コール」が凄いぞ。




2004ソスN9ソスソス19ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 1992004

 鳥渡る旅にゐて猶旅を恋ふ

                           能村登四郎

語は「鳥渡る」で秋。登四郎最晩年八十九歳の句、死の前年の作句である。若い身空で旅にあっても、ときにこういう感興を覚えることがあるが、老いてからのそれは一入だろう。澄んだ秋空を渡ってくる鳥たちを見上げていると、その元気さ、その自由さに羨望の念を覚え、旅先であるのに猶(なお)さらなる遠くへの旅を「恋ふ」気持ちがこみ上げてくるのだ。もはや渡り鳥のようには元気でもなく自由もきかない我が身にとっては、今度のこの旅が最後になるかもしれない。そうした懸念とおそれがあるので、なおさらに鳥たちの勇躍たる飛翔が目にまぶしく感じられる。同じころの句に「啄木鳥や木に嘴あてて何もせず」があり、こちらは何もしないでいる「啄木鳥(きつつき)」に老いた我が身を重ねあわせたものだ。あのいつも陽気で騒がしい鳥にも、じっと黙して動かない時間がある……。一見ユーモラスではあるけれど、何か名状しがたい苦さがじわりと読み手に沁み入ってくる。高齢者の句には総じて淡白なものが多いように思うが、見られるように登四郎の句にはなお作品的な色気がある。人によりけりなのではあろうけれど、妙な言い方をしておけば、登四郎には最後まで読者を意識したサービス精神があったということだ。その道のプロは、かくありたいものだ。『羽化』(2001)所収。(清水哲男)


September 1892004

 包丁に載せて出されし試食梨

                           森田六合彦

語は「梨」で秋。俳句を読んでいると、ときたま懐かしい光景に出会うことがあり、これもまた俳句の楽しさだ。俳句の文芸的な味わいはもとより大切だが、一方で時代のスナッブ写真的機能も大切である。この句は、私の少年期を思い出させてくれた。作者のいる場所などはわからないが、懐かしいなあ、初物の梨などはこうやって「どうだ、食べてみな」と大人が食べさせてくれたものだ。一般的に刃物を人に向けるのはタブーではあるが、皿に盛るほどのご馳走ではないし、量も少ないのでくるくるっと剥いてざくっと切って、「お一つどうぞ」の感じで「包丁」に載せて差し出したものだ。とくに梨のように水分の多い果実は、手から手へ渡すよりも、包丁に載せて出したほうがより新鮮で清潔な感じがあったためだと思う。まさに「試食」ならではの光景である。まさかねえ、こういうことが俳句になろうとは露ほども思ったことはなかったけれど。たぶん作者は、包丁に載せて差し出されたのがはじめての体験だったのではなかろうか。だから、ちょっとぎくりとして、作句したのに違いない。「試食」という状況説明をつけたのが、その証拠だ。私たちの世代なら、試食と言われなくてもそう思うのが普通だからである。ま、そんなことはどうでもよろしいが、とにかくとても美味しそうですね。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


September 1792004

 秋の暮大魚の骨を海が引く

                           西東三鬼

とに有名な句だ。名句と言う人も多い。人影の無い荒涼たる「秋の暮」の浜辺の様子が目に見えるようである。ただ私はこの句に触れるたびに、「秋の暮」と海が引く「大魚の骨」とは付き過ぎのような気がしてならない。ちょっと「出来過ぎだなあ」と思ってしまうのだ。というのも、若い頃に見て感動したフェリーニの映画『甘い生活』のラストに近いシーンを思い出すからである。一夜のらんちきパーティの果てに、海辺に出て行くぐうたらな若者たち。季節はもう、冬に近い秋だったろうか。彼らの前にはまさに荒涼たる海が広がっていて、砂浜には一尾の死んだ大魚が打ち上げられていたのだった。もう四十年くらい前に一度見たきりなので、あるいは他の映画の記憶と入り交じっているかもしれないけれど、そのシーンは掲句と同じようでありながら、時間設定が「暮」ではなく「暁」であるところに、私は強く心打たれた。フェリーニの海辺は、これからどんどん明るくなってゆく。対するに、三鬼のそれは暗くなってゆく。どちらが情緒に溺れることが無いかと言えば、誰が考えても前者のほうだろう。この演出は俳句を知らない外国人だからこそだとは思うが、しかしそのシーンに私は確実に新しい俳味を覚えたような気がしたのである。逆に言うと、掲句の「暮」を「暁」と言い換えるだけでは、フェリーニのイメージにはならない季語の狭さを呪ったのである。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)などに所載。(清水哲男)




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