甲子園のラジオを聞きながら昼寝する楽しみも今日でおしまい。昼寝癖も止めなければ。




2004ソスN8ソスソス22ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 2282004

 釣堀が見え駅に立つ人が見え

                           宮津昭彦

語は「釣堀(つりぼり)」で夏。句の「駅」は東京JR市ヶ谷駅、「釣堀」は市ヶ谷駅下のそれと特定できる。「市ヶ谷フィッシングセンター」という名称だ。休日ならばともかく、天気の良い日だとウィークデイでも釣り糸を垂れる人でにぎわっている。リタイアしたらしき高齢者が多いかというと、さにあらず。けっこう若い人も釣っているから、いったい彼らはどんな身分の人々なのだろうかと訝ってしまう。片や駅のホームには、鞄を抱えた忙しそうなサラリーマンたちの姿があるので、余計に釣堀の人たちが目立つのである。句はこのような情景を見たままスナップ的に詠んでいて、ふっと微笑を誘われる。編集者時代には印刷所に行くのにこの駅をよく利用したので、通るたびに一度でいいから真っ昼間に呑気に釣ってみたいものだと思っていたが、ついに果たせなかった。仕事をサボって釣るには、あまりにも目立ちすぎる場所なのだ。何人かの東京に長い友人に聞いてみたが、そう思ったことはあっても、誰も行ったことがないという。ネットで調べてみたら、次のようにあった。「JR市ヶ谷駅を降りると目の前に広がる、のどかな釣堀。貸し竿は100円、エサ代80円と低料金で道具が揃うので手ぶらで遊びに行ける。50cm以上もある大物のコイを狙うもよし、「ミニフィッシング」で金魚釣りを楽しむもよし。また釣れた魚は1時間につき1尾持ち帰ることができる」。「俳句研究」(2004年9月号)所載。(清水哲男)


August 2182004

 鯉ほどの唐黍をもぎ故郷なり

                           成田千空

語は「唐黍(とうきび)」で秋。玉蜀黍(とうもろこし)のこと。私の田舎(山口県日本海側)では、南蛮黍(なんばんきび)と言っていた。作者は青森の人だが、手に重い大きな唐黍を畑でもいで、やはり故郷はいいなあと満悦している。こんなに大きくて充実したものは、他の地方ではめったに収穫できまいと、誰にともなく自慢している。このときに「鯉ほどの」という形容がユニークだ。植物が動物のようであるとはなかなか連想しにくいけれど、句のそれには無理が無い。まずはずしりと手に余る唐黍の大きさは鯉のように大きいのであり、とびきりのイキの良さや新鮮さもまた鯉のようであり、なによりも豪華な感じが鯉に似通っているというわけだろう。それこそ大きな鯉を釣り上げたときのような喜びが、句をつらぬいている。作者の故郷が鯉の有名な産地かどうかは知らないが、かつて上杉鷹山が米沢藩の濠で鯉を飼育したように、動物性蛋白質の乏しかった山国では鯉の養殖が盛んな地方が多かった。つまり、山国を故郷とする人々にとっては、鯉は特別に珍重さるべき魚なのであり、それだけに豪華のイメージは強いのである。句の「鯉ほどの」には、そうした山国の庶民生活の歴史感情も込められていると読めば、この純朴とも言える故郷賛歌がいっそう心に沁み入ってくるではないか。『現代俳句歳時記』(1989・千曲秀版社)所載。(清水哲男)


August 2082004

 曼珠沙華人ごゑに影なかりけり

                           廣瀬直人

語は「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」で秋。植物名は「ひがんばな」。別名を「死人花(しびとばな)」とも言うが、これは葉が春に枯れることから「葉枯れ」を「わかれ」と訛って、人と別れる花の意としたらしい。こうなると、もう立派な判じ物だ。ついでに「捨子花」の異名もあって、こちらは「葉々(母)に別れる」の謂いだという。いずれにしても、昔から忌み嫌う人の多い花である。だから墓場によく見られるのか、逆に墓場のような場所によく自生していたから嫌われるのか。句の情景も、おそらく墓場ではないかと思う。都会の洒落た霊園などではなく、昔ながらの山国の田舎の墓場だ。霊園のように区画もそんなに定かではないし、どうかするとちゃんとした道もついていない。周辺には樹々や雑草が生い茂り、曼珠沙華が点々と燃えるがごとくに咲いている。聞こえてくるのは蝉時雨のみというなかで、不意にどこからか「人ごゑ」がした。思わずもその方向を目をやってみたが、それらしい誰の姿も見えなかった。「影」は「人影」である。作者が墓参に来ているのかどうかはわからないが、それはどうでもよいことなのであって、山国のなお秋暑い白日のありようが、ちょっと白日夢に通じるような雰囲気で活写されていると読むべきだろう。私には田舎での子供時代の曼珠沙華の様子を、まざまざと思い出させてくれる一句であった。『朝の川』(1986)所収。(清水哲男)




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