ゴロゴロッと来たらパソコンの電源を切ります。仕方ないけど、毎日のことでうんざり。




2004ソスN7ソスソス18ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 1872004

 蟻歩む直に平にこの世あり

                           加藤耕子

語は「蟻」で夏。私に限らず、昔の子供はよく道端などにしゃがんで蟻の行列を見ていたものだった。「蟻が/蝶の羽をひいて行く/ああ/ヨットのやうだ」(三好達治「土」)。句の「直に」を何と読むのか、少し迷った。垂直の「直」と解して「ちょくに」と読んでみたが、どうも坐りが悪い。そこで「じかに」と読み直してみたら、なんだか急に自分が蟻のようになった感じがしてきて、こちらに決めた。たしかに蟻は、二本足で立って歩く私たちとは違って、ほとんど「直に」地面に身体が触れるようにして歩いている。しかも小さいから、行く手に多少のアップダウンがあろうとも、いま歩いている場所はいつもほぼ「平(たいら)に」感じられるのにちがいない。すなわち、蟻にとっての「この世」とは「直に平に」、どこまでも広がっているということだ。もちろんこれは人間の尺度から見た世界認識ではあるが、こんなアングルから蟻の歩行を捉えた作者は、このときに人間の傲慢不遜を思っていたのだろう。蟻には蟻の厳然たる「この世」があるのであって、そういうことを思ってもみない人間は何様のつもりなのだろうかと……。作者にそこまでの人間糾弾意識はないとしても、ここには小さな生き物に対しての敬虔の念がある。一読ハッとさせられ、やがてしいんとした内省意識に誘われる読者は多いだろう。「俳句研究」(2004年8月号)所載。(清水哲男)


July 1772004

 昼寝する我と逆さに蝿叩

                           高浜虚子

の夏の生活用品で、今では使わなくなったものは多い。「蝿叩(はえたたき)」もその一つだが、句は1957年(昭和三十二年)の作だから、当時はまだ必需品であったことが知れる。これからゆっくり昼寝をしようとして、横になった途端に、傍らに置いた蝿叩きの向きが逆になっていることに気がついた。つまり、蝿叩きの持ち手の方が自分の足の方に向いていたということで、これでは蝿が飛んできたときに咄嗟に持つことができない。そこで虚子は「やれやれ」と正しい方向に置き直したのかどうかは知らないが、せっかく昼寝を楽しもうとしていたのに、そのための準備が一つ欠けていたいまいましさがよく出ている。日常生活の些事中の些事でしかないけれど、こういう場面を詠ませると実に上手いものだと思う。虚子の句集を見ると、蝿叩きの句がけっこう多い。ということは、べつに虚子邸に蝿がたくさんいたということではなくて、家のあちこちに蝿叩きを置いておかないと気の済まぬ性分だったのだろう。それかあらぬか、娘の星野立子にも次の句がある。「蝿叩き突かへてゐて此処開かぬ」。引き戸の溝に蝿叩が収まってしまったのか、どうにも開かなくなった。なんとかせねばと、立子がガタガタやっている様子が浮かんできて可笑しい。いやその前に、父娘して蝿叩きの句を大真面目に詠んでいるのが微笑ましくも可笑しくなってくる。『虚子五句集・下』(1996・岩波文庫)所収。(清水哲男)


July 1672004

 妻に供華ぽとんと咲かす水中花

                           細見しゆこう

語は「水中花」で夏。コップや瓶などに水を入れ、その中に圧縮した造花を入れて花を咲かせる。昔はよく玩具屋や夜店などでも売られていたが、最近では手に入れるのがなかなかに難しくなってきた。私は刮目すべき発明品だと思ってきたけれど、もはや時代が受け付けなくなったということか。句の「供華(くげ)」は仏前に花を供えること、あるいはその花を言う。べつに作者は、生花の代わりに水中花を供えたのではあるまい。おそらくは、亡くなった奥さんが、この季節になると好んで咲かせていたのだろう。当時の作者は「またか」と一瞥をくれた程度だったかもしれないが、亡くなられてみると、妙に水中花が懐しくいとおしい。たまたま売っているのを見かけて買い求め、仏前にいま供えている。開く様子を眺めているうちに、うっすらと涙を浮かべている様子は、「ぽとんと咲かす」の表現から容易に想像がつく。と同時に、作者の孤独な暮しようが目に浮かんでくるようだ。そういえば、東京あたりでは今日は早くもお盆(新暦)の送り火である。日本の夏は盂蘭盆会もあるし、原爆忌や敗戦日も重なっているので、どうしても死者のことをいろいろと追想する季節となる。そんな日本の夏に「ぽとんと咲かす水中花」は、その意味からも哀切きわまりない心の響きを増幅して読者の胸に迫ってくる。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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