プロバイダーを変えようかと思う。ここの容量は20Mbしかない。いまどきこれではね。




2004ソスN7ソスソス10ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 1072004

 花二つ紫陽花青き月夜かな

                           泉 鏡花

明過剰とも見えるが、二三度読むうちにしっとりと落ち着いてくる。いかにも鏡花らしい句と思うからだろうか。先入観、恐るべし。「花二つ」が、句の生命だ。一つでは寂しいだけのことになり、三つ以上だと「月夜」にはにぎやかすぎて「青」が浮いてしまう。二つという数は関係の最小単位を構成するから、二つ咲いているのは偶然だとしても、人はその花と花とに何らかの関係を連想するのである。梅雨時の月光ゆえ、秋のそれのようには冴えてはいない。そんな光の中に、二つの紫陽花がぼおっと灯るように咲いている。お互いに寄り添うように、心を通わせるようにと、作者には思われたのだろう。この句については、鏡花の姪(のちに夫人の養女)である泉名月が次のように書いている。「十歳代の頃は、濃緑色の短冊の、この句を眺めると、月夜に咲く、二つの紫陽花の花を思い浮かべていた。幾年も星霜を重ねて、年月が経った今日この頃、花二つの紫陽花の意味は、一つの花は詩情、一つの花は画情をさすのであろうかと、こう、思いめぐらすようになってきた。それとも、二つの花は、人と花、芸と人、恋人二人、現実と浪漫、、それとも、そのほかの、さまざまな深い思いが、花二つの中に、込められているのかも知れないと思ったりする」。と、いろいろに読める句だ。今年も、そろそろ紫陽花の季節が終わろうとしている。『父の肖像2』(2004・かまくら春秋)にて偶見。(清水哲男)


July 0972004

 シャツ雑草にぶっかけておく

                           栗林一石路

季句だが、明らかに夏の情景だ。猛烈な炎天下、もうシャツなんて着てはいられない。辛抱しきれずにしゃにむに脱いで、そこらへんの雑草の上に、かなぐり捨てるように「ぶっかけておく」。まるで「ファィトーッ、イッパーツ、○○○○○○ !」みたいなシーンを思う人もいるかもしれないが、句の背景はあんなに呑気なものじゃない。工事現場でツルハシを振っているのか、荒地でクワを振っているのか。いずれにしても、生活をかけた過酷な労働を詠んだ句である。「ぶっかけておく」という荒々しい表現が、酷暑のなかの肉体労働者の姿を鮮明に写し出し、理不尽な社会への怒りを露にしている。失うものなど、何もない。そんなぎりぎりのところに追いつめられた労働者の肉体が、汗みどろになって発している声なき声なのだ。戦前のプロレタリア俳句運動の代表句として知られるこの一句は、現在にいたるもその訴求力を失ってはいない。これが俳句だろうかだとか、ましてや無季がどうしたのとかいう議論の次元をはるかに越えて、この力強く簡潔な「詩」に圧倒されない人はいないだろう。そして詩とは、本来こうあるべきものなのだ。根底に詩があれば、それが俳句だろうと和歌だろうと、その他の何であろうが構いはしないのである。くどいようだが、俳句や和歌のために詩はあるのではない。逆である。『栗林一石路句集』(1955)所収。(清水哲男)


July 0872004

 明易き人生ああ土根性は

                           小川双々子

語は「明易し」で夏、「短夜」に分類。夏の夜が明け易いように、人生もまた明け易い。光陰矢の如し。時間ばかりが、どんどん過ぎてゆく人生……。夏の早暁に目覚めた作者の実感的連想だろう。人生に欠かせないキーワードはいろいろあるが、あえていまどき流行らない「土根性(どこんじょう)」を持ちだしたところが面白い。戦後の日本人総体のありようを振り返ってみれば、なんだかんだと言ったって、この「土根性」という曖昧な精神力でがむしゃらに驀進してきたような気がする。猛烈サラリーマン、それが飛び火したスポ根ものの隆盛。そんな時代が、確かにあった。このときに句の「ああ」という詠嘆は、複雑だ。土根性いま何処でもあれば、いまこそその残り火を掻き立てよ、でもある。そしてまた「ああ」には、早暁の夢の醒めぎわで、「土根性」などという自分でもびっくりするような、思いがけない言葉が出てきてしまったことへの苦笑も含まれているだろう。妙なことを言うようだが、この句を目覚めのときに思い出すと、けっこう床離れがよくなる。「明易き人生」で意識は静かに覚醒してくるが、次の「ああ」以降を復唱するととても寝てはいられない気持ちになってくる。跳ね起きてしまう。一瞬、忘れていた(土)根性がよみがえり、わけもない焦燥感にかられるからだろうか。お試しあれ。俳誌「地表」(第434号・2004年5月刊)所載。(清水哲男)




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