図書館で借りた本に傍線が……。困るんだ、これ。気になって集中できない。




2004ソスN1ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 2912004

 パソコンに並べて軍手雪来るか

                           水上孤城

近、パソコンを素材にした句が散見されるようになってきた。だいぶ普及してきた様子がうかがえる。ある調査によれば、家庭への普及率は60バーセントを越えたという。私がはじめて触った二十年前に比べると、まさに隔世の感ありだ。間もなく、テレビ並に行き渡るのだろう。さて、掲句。雪が降ってきそうな気配なので、用心のために(たぶん)雪掻き用の「軍手(ぐんて)」を用意し、「パソコン」の隣りにちょっと置いた図だ。パソコンは室内で使うもの、軍手は戸外で使うもの。何でもない取り合わせのようでいて、これらが実際に並んだ様子には、かなりの違和感がある。机の上にもそれなりに秩序というものがあるから、パソコンや筆記具や本などだと秩序は乱れない。ところが軍手に限らず、机の上では使わないものを置くと、途端に机上の世界の秩序が乱れ、なんとも落ち着かない気分にさせられてしまう。どなたにも経験があるだろうが、これは買ってきた新品の靴を畳の上で試しにはいてみるようなもので、なんとなく気分にぴったり来ないのだ。そこらへんの感覚の微妙な揺れをとらえていて、面白いと思った。その揺れが、雪に身構える姿勢と重なり合って伝わってくる。知らず知らずのうちに、私たちはあちこちに秩序世界を形成し、そのなかで暮らしているのである。俳誌「梟」(2004年1月号)所載。(清水哲男)


January 2812004

 手配写真あり熱燗の販売機

                           泉田秋硯

語は「熱燗(あつかん)」で冬。日本酒は飲まないから、熱燗の販売機があるとは知らなかった。面白いもので、人は自分に関心の無いものだと、目の前にあっても気がつかない。毎朝の新聞を読むときなどは、その典型的な縮図みたいなものであって、たとえばいかに巨大なカラー広告が載っていようとも、興味の無いジャンルの商品だと、ぱっと見てはいるのだが何も残らないものである。寒夜、作者は熱燗を買うべく販売機に近づいた。数種類あるうちのどれを買おうかと眺め渡したときに、はじめてそこに「手配写真」が張られていることに気づいたのだろう。でも、たぶんしげしげと見つめたりはしなかった。こんなときに私だったら、逃亡者に同情するのでもないが、この寒空に逃げ回るのも大変だなと、ぼんやりそんなことを思うような気がする。むろん作者がどう思ったかは知る由もないけれど、しかし句の要諦はそこにあるわけじゃない。ささやかな楽しみのために熱燗を買おうとしているのに、イヤな感じを目の前に突き出してくれるなということである。逃亡者の存在がイヤなのではなく、そういうところにまで張り出す警察の姿勢がイヤな感じなのだ。手配写真は密告のそそのかしだから、いかに社会正義のためという大義名分が背景にあるにせよ、あれを晴れやかな気持ちで眺められる人はいないだろう。「せっかくの酒がまずくなる」とは、こういうときに使う言葉だ。『月に逢ふ』(2001)所収。(清水哲男)


January 2712004

 亡き人の忘れてゆきし冬日向

                           三田きえ子

語は「冬日向(ふゆひなた)」、「冬の日」に分類。今日も良い天気、冬に特有の明るい日差しが降り注いでいる。庭だろうか。いつもの冬ならば、そこで必ずのように日向ぼこを楽しんでいた人の姿が、今年は見かけられない。明るい日溜まりであるだけに、余計に喪失感がわいてくる。一見誰にでも詠めそうな平凡な句のようだが、そうじゃない。日向の喪失感までは誰の感受性でも届きそうだけれど、その先が違うのだ。つまり、作者がこの日向を「亡き人」の忘れ物と詠んだところである。この心優しさだ。普通は、というと語弊があるかもしれないが、日向をあの世に持っていくなどという発想はしないものだろう。死者は逝くが、日向はとどまる。そういう発想のなかで、多くの人は詠むはずである。それを作者は、ごく当たり前のように「忘れてゆきし」と詠んでいる。もっと言えば、「当たり前のように」ではなくて、「当たり前」のこととして詠んでいる。心根の優しさが、ごく自然にそう詠ませている。この一句だけからでは、あるいはそんなに感心できない読者もおられるかもしれない。しかし、この一句からだけでもハッとする感受性を持ちたいものだと思う。優しい人柄が自然に出るかどうかは、実作者にとっては非常に大きい。一冊の句集になったときには、そうでない人の句集とは、読者の受ける印象が天と地ほどの差になってあらわれてしまうからだ。最近の俳句が失ったのは、たとえばこうした優しさではないのか。そんな気持ちから、自戒をこめてご紹介してみた。『初黄』(2003)所収。(清水哲男)




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