出勤途次のサラリーマンがジュースを買っていた。宿酔と思うのは想像力の貧困か。




2003ソスN6ソスソス17ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 1762003

 アマリリス男の伏目たのしめり

                           正木ゆう子

アマリリス
語は「アマリリス」で夏。熱帯の百合とでも言うべき華やかさと気品がある。私がすぐに思い出すのは、小沢信男の「四方に告ぐここにわれありアマリリス」で、まことに言い得て妙。その気品であたりを払うような存在感が、しかと刻まれている。擬人化するとすれば、男はたいていこの句に近い感覚で扱う花だろう。ひるがえって、掲句は女性の感覚でつかまえたアマリリスだ。小沢句の花も正木句のそれも、ともに昂然といわば面を上げているところは同じだ。が、いちばんの違いは、小沢句が花を自分に擬していないのに対して、掲句は直裁的に述べてはいないけれど、最終的にはみずからに擬している点である。当たり前と言えば当たり前で、男が自分を花に例えるなどめったにない。せいぜいが散り急ぐ桜花くらいか。ただ当たり前ではあっても、掲句の展開にはどきりとさせられた。花に擬すとはいっても、男は「立てば芍薬坐れば牡丹」などと、いつも外側からの擬人化であるのに比べて、女性はどうやら花の内側に入り込んでしまうようなのである。擬人化した主体が花化している。入り込んでいるので、ちょっと蓮っ葉な「男の伏目たのしめり」という物言いも嫌みにならない。すべてを当人が言っているのではなくて、花が言っているのでもあるからだ。常日ごろ「伏目」がちの私としては、この句を知ったときから、女性をアマリリスの精だと思うことにしている。そう思ったほうが、気が楽になる。半分はホントで、半分はウソだけど……。『水晶体』(1986)所収。(清水哲男)


June 1662003

 伯母逝いてかるき悼みや若楓

                           飯田蛇笏

語は「若楓(わかかえで)」で夏。楓の紅葉も見事だが、若葉青葉も美しい。句の読みどころは、むろん「かるき悼み」だ。訃報に接して、しくっと胸に来た。だが、それ以上の重い悼みの心は湧いてこない。おそらく「伯母」なる人は、長患いだったのだろう。親類縁者も、近い将来にこの日が来ることを予測していたのだと思われる。また、彼女の死によって、幼い子が遺されるといったような、周辺に直接的な不幸の種が芽生える気遣いもなかったのだ。そして、彼女自身にも死の覚悟ができていることを、作者は薄々ながら知っていた。だから「ああ、やつぱり……」という気持ちになった。こうした想像力を読者に呼び覚ます力は、すべて「かるき」の措辞にある。しくっとした心に若楓の明るさが染みとおるような句で、なまじな追悼句よりも鮮烈ではないか。ただ、作者にしてみれば、発表に際してはよほどの勇気が必要だったにちがいない。「かるき悼み」を不謹慎な表現と読むのが、世間一般というものの文法であるからだ。そして俳句は、世間一般に顔を向けている。この文法が如何に強力であるかについては、読者諸兄姉が先刻ご承知なので、いまさらくだくだしく述べる必要はないだろう。もしも自分が作者と同じような気持ちだったとしたら、こんなふうに詠めるだろうか。ちょっと想像してみるだけで、作者の勇気が実感される。しかも、作句されたのが大正四年(1915年)であることを思えば、なおさらである。『山廬集』(1932)所収。(清水哲男)


June 1562003

 パナマ帽へ手を当つ父の遠会釈

                           菊井稔子

パナマ帽
語は「パナマ帽(夏帽子)」。元気だったころの父親を偲んだ句だ。帽子にちょっと手をかけて「遠会釈」する仕草に、当時の作者はいちばん父らしさを感じていたのだろう。父というと、今でもまずその様子が浮かんでくる……。日本の男が帽子を大いに愛用したのは、明治期から戦後十年くらいまで。戦前の繁華街のスナップ写真を見ると、帽子姿の男が多い。私の父も、いくつか帽子を持っていた。ピーク時の着用率は昭和初期で九割だったというから、作者の父親の帽子姿も一般的だったわけだが、この帽子が「本パナマ」だとしたら、相当な洒落者だったと推測される。漱石も書いているように、本物のパナマはとても高価だった。となると、そんなダンディな父親を、娘は誇らしげに思っていたことになる。格好いいお父さんの格好いい挨拶。往時の父親の残像を通して、古き良き時代を懐かしんでいる。写真のポスターは句にふさわしくはないけれど、パナマ帽が世界的なダンディズムの象徴だった証拠として掲げておく。『BONNIE AND CLYDE(邦題・俺たちに明日はない)』(1967)。舞台は大恐慌時のアメリカで、主人公の若者は刑務所を出たばかりのちんぴらのくせに、パナマ帽を小粋にかぶっているという設定だ。このダンディな姿に女が一目ぼれするところから、映画が動き出す。意気投合した二人は強盗になり派手に暴れまくるのだが、最後には警官隊に包囲され猛烈な銃撃を浴びて死んでいく。警察に二人を売ったのは、途中から仲間に加わった男の父親だった……。今日は「父の日」。『花の撓』(2003)所収。(清水哲男)




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