満開の桜に雨。昨年といい今年といい、天の神様は不機嫌だ。不機嫌も当たり前か。




2003ソスN4ソスソス3ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 0342003

 花冷の百人町といふところ

                           草間時彦

古屋などにも「百人町」の地名はあるが、前書に「俳句文学館成る」とあるから、東京は新宿区の百人町だ。JR山手線と中央線に挟まれた一帯で、新宿から電車で二分ほど。戦前は、戸山ケ原と呼ばれていた淋しい場所だったという。町名の由来は、寛永年間に幕府鉄砲百人組が近辺に居住していたことから。その名のとおり百人を一組とする鉄砲隊で、江戸には四組あり、この町には伊賀組の同心屋敷があった。さて、現代の百人町を詠むのはたいへんに難しい。というのも、あまりにも雑然とした構造の町だからである。町を象徴するような建物やモニュメントもなければ、とりたてた名産品があるわけでもない。俳句愛好者なら、それこそ俳句文学館を思い浮かべるかもしれないけれど、地元の人の大半は、何のための建物なのかも知らないのではあるまいか。要するに、つかみどころがないのである。掲句は、そんなつかみどころのなさを、そのまま句にしている。「百人町といふところ」は、どんなところなのか。それは、読者におまかせだと言っている。だから逆に「花冷(え)」という漠然たる情趣には、似合う町だと言えようか。「花冷(え)」の「花」はむろん桜だが、この町には実は「つつじ」の花のほうが多い。百人組の給料は安く、彼らは遊んでいる土地を分け合って、内職に「つつじ」を栽培したのだという。その名残が、いまだに残っているというわけだ。ちなみに、俳句文学館の創立は1976年(昭和五十一年)。作者は俳人協会事務局長として、設立運動に専従で奔走した。『朝粥』(1979)所収。(清水哲男)


April 0242003

 百年のグリコ快走さくら咲く

                           泉田秋硯

京の桜は、この週末にかけてが見ごろ。ついこのあいだ咲きはじめたかと思ったら、あっという間に満開になってしまった。掲句は、桜前線がぐんぐん北上してくる速さを、「グリコ」のランナーのスピードに例えていて愉快。稚気、愛すべし。ただし「百年」はちょいとオーバーで、グリコの歴史は八十年ほど(1922年発売)であるが、ま、とにかく桜前線もグリコの青年も、昔から速いことになっているから、これでいいのだ。ところで、江崎グリコのHPを見ていたら、有名なコピー「一粒三百メートル」の解説が載っていた。「グリコ(キャラメル)には、実際に一粒で300メートル走ることのできるエネルギーが含まれています。グリコ一粒は15.4kcalです。身長165cm、体重55kgの人が分速160mで走ると、1分間に使うエネルギーは8.21kcalになります。つまりグリコ一粒で1.88分、約300m走れることになります」。「なるほどねえ」と感心するにはトシをとりすぎてしまったけれど、ポパイのほうれん草とは違って、甘いものを健康に結びつけて商売にするのは大変だっただろう。そこで「エネルギー」の補給に気がついたのは、まことに炯眼と言うべきで、それこそ百年の昔から、いまだに私たちは「エネルギー」を求めて四苦八苦、右往左往、国家的には戦争までしでかしている始末だ。『鳥への進化』(2003)所収。(清水哲男)


April 0142003

 ハーモニカ白布に包み渡り漁夫

                           山本 源

ハーモニカ
語は「渡り漁夫(「やんしゅう」とも)」で春。ニシンの漁期になると、東北地方の農民が出稼ぎに、ぞくぞくと北海道へ渡った。海の季節労働者だ。いまでは、ニシン漁もすっかり衰退してしまったという。が、「渡り漁夫携帯電話夜な夜なの」(菊池志乃)という句があることからすると、出稼ぎの人がいなくなったわけではないようだ。掲句は、まだ携帯電話などがなかったころの作。淋しさをまぎらわすための「ハーモニカ」を、その人は「白布に」包んでいる。どんなに大切にしている楽器かが、よくわかる。白布を解いて取りだすとき、吹き終わって包むときの仕草までが、目に浮かぶ。律義で真面目な人柄なのだ。その人の吹いた曲は、童謡だろうか、歌謡曲だろうか。きっと、とても哀切な響きを漂わせたことだろう。それでなくとも、ハーモニカの音色には哀愁がある。比較的安価な楽器ではあるけれど、安価だけでは人気を得ることはできない。やはり、日本人のウエットな心情にぴたりとくる音色が出るから、一時の流行もあったわけだ。掲句は、その人が吹いている情景を詠まずして、吹いている情景や心情も伝えているのであり、さらにはこの小さな楽器の持つ魅力の源泉も伝えている。ちなみに、図版は現在3800円で市販されているごく普通の21穴式。ひさしぶりに、吹いてみたくなった。私の扱える楽器は、ハーモニカしかない。『新日本大歳時記・春』(2000・講談社)所載。(清水哲男)




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