レストランでもらったサービス券。よくみたら「コピー可」とあった。なんじゃ、これ。




2003ソスN1ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 1612003

 寒卵煙も見えず雲もなく

                           知久芳子

語は「寒卵(かんたまご)」で冬。寒中の鶏卵は栄養価が高く、また保存が効くので珍重されてきた。が、いまどきの卵を「寒卵」と言われても、もはやピンとこなくなってしまった。割った具合からして、いつもと同じ感じがする。それはともかく、掲句の卵は見事な寒卵だ。黄身が平素のものよりも盛り上がり、全体に力がみなぎっている様子がうかがえる。まさに一点のくもりもなく、椀に浮いているのだ。それを大袈裟に「煙も見えず雲もなく」と言ったところに、面白い味が出た。このときに「煙も見えず雲もなく」とは、あまりにも見事な卵の様子に、思わず作者の口をついて出た鼻歌だろう。というのも、この中七下五は、日清戦争時の軍歌「勇敢なる水兵」の出だしの文句だからだ。佐々木信綱の作詞。この後に「風も起こらず波立たず/鏡のごとき黄海は/曇り初めたり時の間に」とつづく。八番まである長い歌で、黄海の海戦で傷つき死んでいった水兵を讚える内容である。内容の深刻さとは裏腹に、明るいメロディがついていて、おかげでずいぶんと流行したらしい。しかし、作者は昨日付の宗因句のように、パロディを意識してはいない。したがって、好戦や反戦とは無関係。卵を割ったとたんに、ふっと浮かんできた文句がこれだった。すなわち鼻歌と言った所以だが、歌も鼻歌にまでなればたいしたものである。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


January 1512003

 雪にとめて袖打はらふ駄賃かな

                           西山宗因

因は江戸前期の人で、元来は肥後八代の武家であったが、浪人して連歌師となり、のち俳諧に転じた。談林派の祖で、門下には西鶴もいた。現代の俳句から、まったくと言ってよいほどに影をひそめたのが、このような詠み方だろう。前書に「古歌なをしの発句にとてつかうまつりしに」とある。いわゆる「本歌取り」という手法で、意識的に先人の作の用語や語句などを取り入れて作る方法だ。掲句は、有名な藤原定家の「駒とめて袖打ち払ふ蔭もなし佐野の渡の雪の夕暮」を踏まえて作られている。宗因はこれを、旅の途中で激しい雪にあい、折りよく通りかかった馬子を「とめて」、「袖打はらふ」ほどのなけなしの銭で、高い「駄賃(だちん)」を支払ったと換骨奪胎した。定家の雅を俗に転じた機知と滑稽。「く〜だらねえっ」と、いまどきの俳人はソッポを向きそうだけれど、なかなかどうして、したたかで面白い句だ。遊びには違いないが、貴人定家の上品趣味をからかうと同時に、庶民の自嘲的哀感がよく出ているし、俗に生きなければ生きられない庶民の土性骨も感じられる。ところで、この定家の歌そのものが『万葉集』の「苦しくも降りくる雨か三輪が崎佐野の渡に家もあらなくに」の本歌取りであることは、よく知られている。定家は万葉の俗を雅にひっくり返し、それをまた宗因がひっくり返してみせた。凡手のよくするところではあるまい。(清水哲男)


January 1412003

 ゆりかもめ消さうよ膝のラジカセを

                           佐藤映二

語は「ゆりかもめ(都鳥)」で冬。文学上では、在原業平の「名にしおはばいざ言問はん都鳥わが思ふ人は在りやなしやと」で有名だ。今日も隅田川あたりでは、ギューイギューイと鳴き交わし乱舞していることだろう。作者は岸辺でそんな光景を前にしているのだが、最前から近くにいる若者の鳴らしている「ラジカセ」の音が気になってしかたがない。そこでこの一句となったわけだが、「消せよ」ではなく「消さうよ」と呼びかけているところに、作者の心根の優しさが滲み出ている。音楽を楽しんでいる君の気持ちもわかるけど、せっかくの「ゆりかもめ」じゃないか。しばし、自然のままに、あるがままに過ごそうじゃないか……。ヘッドホンで聴くウォークマンが登場する以前のラジカセ時代には、句のように、公園などでもあちこちで音楽が鳴っていた。音楽を持ち運べるようにした工夫は画期的なものであり、これによって開発された文化的状況には素晴らしいものがある。が、他方では、これまでにはなかった新しい迷惑状況が生み出されたことも事実だ。ただ、当時のラジカセ族の気持ちのなかには、自分さえ楽しめればよいのだというよりも、周囲の人にも素敵な音楽を聞かせてあげたいという心情もあったのではないか。振り返ってみて、なんとなくそうも思われる。そうした雰囲気が感じられたので、にべもなく「消せよ」とはならなかったとも言えるだろう。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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