飲酒した翌日は少し早めに出社せよ。と、卓上日記の御託宣。来年は違うのにしよう。




2002ソスN12ソスソス4ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 04122002

 冬枯や墾き捨てたるこのあたり

                           河東碧梧桐

味な句だが、ただの「冬枯(ふゆがれ)」でないところに、新しさを求めてやまなかった碧梧桐らしさがある。「墾き」は「ひらき」。一度は、人の手の入った荒れ地の冬枯れだ。そう遠くはない過去に、誰かが開墾した痕跡が歴然と残っている。区画がはっきりとしているだけではない。冬枯れた雑草に混じって、かつてここに植えられていたと思われる野菜などの末裔も見えているのだろう。種が自然にこぼれ散って、自然に生えてきたのだ。土地が痩せすぎていたのか、あまりに水の便でも悪かったのか、それとも墾いた人のまったく別の事情によるものなのか。いずれにせよ、墾いた人の目論みはあっけなく挫折してしまったのだ。そんなふうに、打ち捨てられた「このあたり」には、いつもいろいろなことを想像させられる。ドラマを感じる。ましてや今は寂しくも侘しい冬枯れの景を眼前にしているのだから、ドラマはより暗いほうへと傾いていく……。「このあたり」がどのあたりなのかは知る由もないけれど、そんなに人里離れた土地ではないだろう。ぶらりと散歩にでも出れば、すぐ近くにあるような場所だと思う。昭和の初期くらいまでは、まだどこにも土地が潤沢に余っていた。だから、案外あっさりと「墾き捨て」ることができたのかもしれない。『現代詩歌集』(1966・河出書房)所載。(清水哲男)


December 03122002

 雪の降る町といふ唄ありし忘れたり

                           安住 敦

に雪がちらついている。歩きながら作者は、そういえば「雪の降る町といふ唄」があったなと思い出した。遠い日に流行した唄だ。何度か小声で口ずさんでみようとするのだが、断片的にしか浮かんでこない。すぐに、あっさり「忘れたり」と、思い出すのをあきらめてしまった。それだけの句ながら、この軽い諦念は心に沁みる。かくし味のように、句には老いの精神的な生理のありようが仕込まれているからだ。すなわち「忘れたり」は、単に一つの流行り唄を忘れたことにとどまらず、その他のいろいろなことをも「忘れたり」とあきらめる心につながっている。若いうちならば、どんなに些細なことでも「忘れたり」ではすまさなかったものを、だんだん「忘れたり」と早々にあきらめてしまうようになった。そういうことを、読者に暗示しているのだ。そうでなければ、句にはならない。唄の題名は、正確には「雪の降る街を」(内村直也作詞・中田喜直作曲・高英男歌)だけれど、忘れたのだから誤記とは言えないだろう。歌詞よし、曲よし。私の好きな冬の唄の一つだ。しかし長生きすれば、きっとこの私にも、逃れようもなく「忘れたり」の日が訪れるのだろう。せめてその日まで、この句のほうはちゃんと覚えていたいものだと思った。『柿の木坂雑唱以後』(1990)所収。(清水哲男)


December 02122002

 黄落や大工六人の宇宙

                           河原珠美

語は「黄落(こうらく)」で秋。しかし、ただいま現在、我が家に近くの銀杏の落葉しきりなり。たまに拾ってきて、本の栞に使う。さて、掲句は黄落のなか、家の新築が進んでいる様子を詠んでいる。よく晴れた日だ。高いところには大工が六人いて、黙々と仕事をしている。そして、彼らよりもさらに高いところから、金色の葉がはらはらと舞い落ちている。青空を背景に、真新しい木の枠組みと、そこで働く大工たちの姿は、なるほど一つの「宇宙」を形成している。何度か見かけたことのある情景で、たいていはすぐに忘れてしまうのだけれど、こうして「宇宙」と断言されることにより、いつかどこかで見た記憶が鮮かに蘇ってくる(ような気がする)。そのときには、決して「宇宙」と認識して見たわけではないのだが、潜在的にはぼんやりとでも「宇宙」ととらえていたのだろう。そして、この「宇宙」にリアリティを与えているのは「黄落」でもなければ「大工」でもない。「六人」である。実際に六人だったかどうかは、関係がない。仮に「七人」だとか「五人」だとかに入れ替えてみれば、実に六人が絶妙な数であることがわかる。「七人」では無理に「宇宙」をこしらえているようだし、「五人」では「ホントに五人だったのです」と力が入っている感じを受けてしまう。奇数と偶数のニュアンスの差だ。でも、これが「四人」や「二人」となると大工のいる高い位置と広いスペースが確保されないので、「宇宙」と呼ぶには狭すぎる。やはり「六人」しかないでしょうね。『どうぶつビスケット』(2002)所収。(清水哲男)




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