心なしか、街で救急車を見かける回数が増えてきた。どちらさまも、御自愛御専一に。




2002ソスN12ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 01122002

 十二月真向きの船の鋭さも

                           友岡子郷

日から「十二月」。そう思うだけで、いかに愚図な私でも、どこか身の引き締まるような感じを覚える。掲句は、そんな緊張感を具現化したものだ。港に停泊している「船」も、昨日までの姿とは違う。「真向(まむ)き」に、すなわち正対して見ると、船首の「鋭さ」がいっそう際立って見えてきた。この鋭さは、むろん作者の昨日とは異なる感性が生みだしたものだ。清潔な句景も、よく十二月の心情とマッチしている。ところで、この船は実際にはどんな形の船なのだろう。一口に船と言っても、多種多様だ。作者は実景を詠んでいるのだが、読者には具体的な形までは伝わらない。このことに触れて、作者は近著『友岡子郷・自解150選』で「言語表現の宿命的なあいまいさ」と書いている。「俳句をつくっていて、いつも苛立たしい苦労をするのは、自分には言葉しかないからである」とも……。たしかに、言葉は写真や絵画のようには物の形を伝えることができない。でも、だからこそ、言葉は面白いのではあるまいか。掲句にそくして言えば、船の形がビジュアルに限定されてしまうと、かえって伝えたい十二月の緊張感がそれこそ「あいまい」になってしまうのではないか。それぞれの読者が、それぞれの形を自由にイメージできるからこそ、句がはじめて生きてくるのである。と、生意気を書いておきます。『春隣』(1988)所収。(清水哲男)


November 30112002

 脚冷えて立ちて見ていし孤児の野球

                           鈴木六林男

の「野球」の句は珍しい。が、どんなに寒かろうと、子供らが元気に野球をやった時代が、敗戦後の一時期にはあった。あのころの野球熱が、その後のプロ野球を育てたのだ。王や長嶋のようなスターがいたから、プロが繁栄したのではない。順序はまったく逆であって、句のような子供たちがいたからこそ、彼らも存分に活躍できたのである。このときの作者は三十歳そこそこだ。バターン・コレヒドール要塞戦で、負傷帰還して間もなくの句である。自註に曰く。「大学の附属病院では病気の戦災孤児を収容した。孤児たちはボロ布を丸めたボールで野球をしていた。脚から冷えて長く観ておれなかった。場所は、西東三鬼が勤務したことのある関西医大附属香里病院。京阪鉄道の香里園にある」。野球ができるくらいだから、病気もかなりよくなった「孤児」たちなのだろう。そこで野球をやっていれば「どれどれ」と立ち止まったのも、あのころである。孤児と野球。直接アメリカ軍と戦った元兵士にしてみれば、この取り合わせに複雑な感慨を覚えないわけはあるまい。無差別爆撃で、非戦闘員の彼らを孤児にしたのはアメリカだ。戦後いちはやく占領政策的に野球を復活させたのも、他ならぬアメリカという国である。眼前の孤児たちは、しかし無心に野球に興じている。「脚冷えて」きたのは単に寒気のせいだが、どこかそれだけのせいでもないような余韻の漂う句。国敗れて野球あり。などと、自嘲すらできない哀しい句。『谷間の旗』(1955)。(清水哲男)


November 29112002

 原点に戻らぬ企業返り花

                           的野 雄

語は「返り花(帰り花)」で冬。小春日和の暖かい日がつづくうちに、どういう加減からか季節外れの桜や桃の花が咲くことがある。新聞の地方版に、写真入りで載ったりする。そんな花を見かけて、すぐさま「企業」のありように思いが飛んだところが哀しい。会社が倒産かそれに近い状態に陥り、三度も痛い目にあった私には、あながち突飛な連想とも思えない。しごく真っ当な飛躍と写る。もっとも、ここで作者は自分の属している企業のことを言っているのか、それとも企業一般のことを指しているのかはわからない。が、どちらでもよいだろう。企業は生き物だから、それ自体で刻々と変化していく。「原点」の構築に携わったのはまぎれもない人間だけれど、そうした人間の初発の精神とは関わりなく、法人格としての企業は人間を置き去りにしてまでも、みずからの延命に執心する。もっと言えば、企業は資本の論理以外の何ものも栄養にすることはできないので、そうならざるを得ない。いつまでも原点などにこだわっていては、身が持たないのである。そうした企業のたまさかの繁栄を、人間である作者は狂い咲きの花のようだと言っている。さらには、どんな人間の力をもってしても「原点に戻らぬ企業」の強圧に、なお唯々諾々と従っているおのれを哀しみ、自嘲してもいる。しかし、この不況の世の中。束の間であれ「返り花」が見られる企業は、まだよしとしなければ……。『斑猫』(2002)所収。(清水哲男)




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