「芸術新潮」(12月号)特集の椅子やテーブルの写真に嘆息。良い家具は終の憧れです。




2002N1126句(前日までの二句を含む)

November 26112002

 すずかけ落葉ネオンパと赤くパと青く

                           富安風生

ずかけ(鈴懸・プラタナスの一種)は丈夫なので、よく街路樹に使われる。夜の街の情景だ。ネオンの色が変化するたびに、照らされて舞い落ちてくる「すずかけ落葉」の色も「パと」変化している。それだけのことで、他に含意も何もない句だろう。でも、どこか変な味のする句で記憶に残る。最初に読んだときには「ネオンパ」と一掴みにしてしまい、一瞬はてな、音楽の「ドドンパ」みたいなことなのかなと思ったが、次の「パと青く」で読み間違いに気がついた。途端に思い出したのが、内輪の話で恐縮だけれど、辻征夫(貨物船)が最後となった余白句会に提出した迷句「稲妻やあひかったとみんないふ」である。このときに、井川博年(騒々子)憮然として曰く。「これが問題でした。これなんだと思いますか。大半のひとはこれを『た』が抜けているけど、きっと『逢いたかった』のだと読んだ。騒々子一発でわかりました。これは『あっ、光った』なんですね。実にくだらない。……」。同様に、風生の掲句も実にくだらない。今となっては、御両人の句作の真意は確かめようもないけれど、とくに風生にあっては、このくだらなさは意図的なものと思われる。確信犯である。一言で言えば、とりすました現今の俳句に対する反発が、こういう稚拙を装った表現に込められているのだと、私は確信する。おすまし俳句に飽き飽きした風生が、句の背後でにやりとしている様子が透いて見えるようだ。辻は、この句を知っていたろうか。『新日本大歳時記・冬』(1999)所載。(清水哲男)


November 25112002

 釣具屋を畳むにぎわい冬鴎

                           五味 靖

んなに大きな店ではなくても、いざ「畳む」となれば大変だろう。店主としてはひっそりと店じまいにしたいところだろうが、何人かの手伝いも来ていて、それなりににぎやかになっている。大声や笑い声も聞こえてくる。店を閉める主人の感慨もへちまもどこへやら、こういうときの現場はむしろ活気に満ちた「にぎわい」を見せるものだ。一方では、港か河口に近い場所なので、そこここには鴎(かもめ)たちがうるさいくらいに、群れをなして飛び回っている。まるで、映画の一場面のような光景……。そして、この二つの「にぎわい」から浮かび上がってくるものは、表面的な「にぎわい」の奥底に沈んでいる寂寥感だ。一つの小さな歴史が閉じられるときの寂しさを、二つの「にぎわい」の中にとらえた作者の目は鋭くも的確である。それにしても「畳む」という言葉は面白い。元来は「折り返して重ねる」、すなわち「きちんと整理する」に近い意だろうが、句のように「閉じて引き払う」の意味で使ったり、あるいは「胸に畳んでおく」などと内面的な意味で機能させたりもする。子供のころに、時代劇映画で「畳んじまえっ」という言葉を知ったときには驚いた。人の命を「畳む」とは乱暴な話だが、直裁的な「殺っちまえ」よりも、殺人者の逡巡が「畳む」と言わせているのかなと思ったのは、もちろん大人になってからのことである。『武蔵』(2001・私家版)所収。(清水哲男)


November 24112002

 つはぶきや二階の窓に鉄格子

                           森 慎一

キップ
語は「つはぶき(石蕗の花)」で冬。学名を「Farfugium japonicum」と言うそうだから、原日本的な植物なのかもしれない。しかし、いつ見ても寂しい花だと思う。蕗の葉に似た暗緑色と花の黄色との取り合わせが、いかにも陰気なのである。一茶が「ちまちまとした海もちぬ石蕗の花」と詠んでいるように、元来が海辺の野草だ。昨冬、静岡の海岸で見かけたけれど、寒い海辺に点々と黄が散らばっている様子は、なんとも侘しい風情であった。そんな暗い感じの石蕗を庭に植えるようになったのは、花の少ない冬季に咲く花だからだろう。よく、旅館の庭の片隅などで咲いている。これは四季を通じて花を絶やさぬサービス精神の発露とはわかるが、だが、何でも咲いていればよいというものでもあるまい。仕事での一人旅だったりすると、かえって気が滅入ってしまう。掲句は、そんな「つはぶき」の舞台にぴったりの情景を伝えている。「二階の窓に鉄格子」とはただならないが、かつての座敷牢の名残りでもあろうか。だとすれば、この家にはどんな暗い歴史があったのだろう。などと、通りすがりの作者は空想している。それもこれも、陰気な「つはぶき」が空想させているのである。写真は青木繁伸氏のHP「Botanical Garden」より縮小して借用した。この花の雰囲気が、よく出ている。『風丁記』(2002)所収。(清水哲男)




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