旅に出ると古書店に行き、御当地ならではの俳書を探す。収穫あらば近々披露します。




2002ソスN11ソスソス2ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 02112002

 換気孔より金管の音柿熟るる

                           星野恒彦

うかすると、こういうことが起きる。「換気孔」からは空気が吐き出されてくるのだが、管を伝って音が出てきても不思議ではない理屈だ。いつだったか、我が西洋長屋の台所の換気扇から、かすかながらも表の人声が聞こえてきたことがある。はじめは幻聴かなと思ったけれど、そうではなかった。できるだけ換気扇に耳を近づけてみると、明らかに女性同士の話し声だと知れた。表の換気孔の近くで、立ち話をしていたのだろう。そんな体験もあって、掲句が目についた。この場合には、作者は戸外にいる。「金管(ブラス)の音」が聞こえてくるのだから、普通のマンションなどの近くではないだろう。学校などの公共の建物のそばだろうか。もとより作者に金管の正体は見えないわけだが、吹奏楽などの練習の音が漏れ聞こえてきているようだ。「柿熟るる」ころは学園祭のシーズンでもあるので、金管の音と熟れている柿との一見意外な取り合わせにも、無理がないと感じられる。金管楽器にもいろいろあるが、換気の管によく伝わるのは高音の出るトランペットの類か。いずれにしても、たわわに実った柿の木の上空は抜けるような青空であり、気持ちの良い光景に更にどこからともなくブラスの音が小さく加わって、至福感がいっそう高まったのだ。『連凧』(1986)所収。(清水哲男)


November 01112002

 謙虚なる十一月を愛すなり

                           遠藤梧逸

や、十一月だ。季語としての「十一月」は、立冬のある月なので冬に分類。暦の上では冬に入る月だが、小春日和といわれる暖かい日々もあり、トータルでは案外十月よりも暖かかったりする。「あたゝかき十一月もすみにけり」(中村草田男)という印象深い句もある。とはいえ、一方では木枯らしの吹く日もあって、季節はじんわりと確実に冬へと向かっていく。掲句を読んで真っ先に思ったことは、句のように当月を人格化したときに、なるほど「謙虚」という表現がぴったりくるのは、今月十一月しかないだろうなということだった。前に出過ぎず、しかし着実に次の月へとバトンを渡していく感じがある。そこで、お遊びを思いついた。では、他の月には、どんな人格や性格を当て嵌めればぴったりくるのだろう。拙速で私なりに並べてみると、来月十二月は「短気」だろうか。一月は「堂々」でいいだろう。そして、我が生まれ月の二月は「孤独」。三月は浮かれがちになるので異論も覚悟で「軽佻」、逆に四月は年度はじめゆえ「実直」となる。五月は文句なしに「明朗」で、六月は「陰鬱」と言うしかあるまい。七月は「蹶起」ないしは「血気」のような感じだけれど、八月は七月の惰性みたいな月だから「怠惰」でいきたい。九月にはちょっと困ったが「素朴」としておいて、十月は案外に雨の日も多いことから「曖昧」としておこう。いかがでしょうか。下手くそすぎますかね。やっぱりね。『新日本大歳時記・冬』(1999)所載。(清水哲男)


October 31102002

 客われをじつと見る猫秋の宵

                           八木絵馬

句を読む楽しさの一つは、情景が描かれていない句の情景を想像することだ。たとえば掲句では、猫に「じつと」見つめられていることはわかるけれど、シチュエーションはわからない。どんなシーンでの句なのか。まず手がかりになるのは「客」だろう。しかし客にも二種類あって、他家を訪れているのか、それとも猫がいるような古くて小さな商店にでも入っているのか。どちらとも取れるし、どちらでもよい。だが、次なるキーワード「秋の宵」と重ねてみると、かなり輪郭がはっきりしてくると思う。そぞろ寒く侘しい雰囲気の宵……。となれば、古本屋だとか古道具屋のイメージが浮かんでくる。ふらりと入った小さな店には、他の客の姿はない。物色するともなく商品を眺めているうちに、ふと視線を感じた。こうした店の主人は客を「じつと」見ることはしないのが普通だから、いぶかしく思って視線の方角を見ると、こちらを注視している猫と目が合ったのである。見返しても、猫はいっこうに視線をそらさない。万引きでもしやしないかと見張られているようで、いやな感じだ。このときに「客われを」の「われを」に込められているのは、「こっちは客なんだぞ、失敬な」という気持ちだろう。それでなくとも侘しい秋の宵の気分が、猫のせいで、ますます侘しくなってしまった……。『合本俳句歳時記』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)




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