♪晴れたお空は子供の空よ、そうだラッタラッタラッタッタ…。下手な歌だが忘られぬ。




2002ソスN10ソスソス30ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 30102002

 神無月主治医変はりてゐたりけり

                           秋本ひろし

語「神無月(かんなづき)」は陰暦十月の異称なので、冬に分類。今年は来週の火曜日、十一月五日が朔日にあたる。作者は、定期的に診察を受けている人だ。いつものように出かけていったら、主治医が変わっていた。前回の診察のときには、交替するなど聞いていないし、その気配すらなかったから、狐につままれたような気分だ。何かよほどの事情があっての、急な交替なのだろうか。が、新しい主治医に、根掘り葉掘り尋ねるわけにもいかない。私には経験がないけれど、長い間診てもらっていた医者が前触れもなしにいなくなるのは、かなり心細いことだろう。カルテは引き継がれても、蓄積された信頼の心や親愛感は引き継がれないからである。なんとなく釈然としない気持ちのままに診察が終わり、ふと今が「神無月」であることに気がついたのだった。まさか前任者を神のように崇めていたわけではないが、神様ですら忽然と不在になる月なのだからして、医者がひとり姿を消したとしても不思議ではないかもしれない……。とまあ、妙な納得をしているところが読ませる。とかく生真面目に重たく詠まれがちな神無月を、本意を歪めることなく軽妙に詠んでいて、しかもペーソスが滲み出ている。現代的俳諧の味とは、たとえばこういうものであろう。『棗』(2002)所収。(清水哲男)


October 29102002

 月明の毘沙門坂を猪いそぐ

                           森 慎一

句碑
名的には正式な呼称ではないようだが、「毘沙門坂(びしゃもんざか)」は愛媛県松山市にある。松山城の鬼門にあたる東北の方角に、鎮めのために毘沙門天を祀ったことから、この名がついた。さて、掲句はおそらく子規の「牛行くや毘沙門坂の秋の暮」を受けたものだろう。写真(愛媛大学図書館のHPより借用)のように、現地には句碑が建っている。百年前の秋の日暮れ時に牛が行ったのであれば、月夜の晩には何が行ったのだろうか。そう空想して、作者は「猪(い・いのしし)」を歩かせてみた。子規の牛は暢気にゆっくり歩いているが、この句の猪はやけに早足だ。「い・いそぐ」の「い」の畳み掛けが、猪突猛進ほどではないが、そのスピードをおのずと物語っている。何を急いでいるのかは知らねども、誰もいない深夜の「月明」の坂をひた急ぐ猪の姿は、なるほど絵になる。さらに伊予松山には、狸伝説がこれでもかと言うくらいに多いことを知る人ならば、この猪サマのお通りを、狸たちが息を殺して暗い所からうかがっている様子も浮かんでくるだろう。月夜の晩は狸の専有時間みたいなものだけれど、猪がやって来たとなれば、一時撤退も止むを得ないところだ。いたずら好きの狸も、猪は生真面目すぎるので、苦手なのである。そんなことをいろいろと想像させられて、楽しい句だ。こういう空想句も、いいなあ。『風丁記』(2002)所収。(清水哲男)


October 28102002

 冬瓜と帽子置きあり庫裏の縁

                           北園克衛

語は「冬瓜」で秋。秋に実って冬場まで長持ちするので、この名がついたという。ずんぐりむっくりしていて、煮物にしたりするが、そのものの味は薄い。作者の北園克衛は、モダニズム詩の第一人者。出たばかりの「現代詩手帖」(2002年11月号)が、生誕百年を記念して特集を組んでいる。なかに、没後に藤富保男が編纂した句集『村』(1980)の話題があり、小澤實が紹介を兼ねた文章を寄せている。北園に俳句があることは仄聞していたけれど、原石鼎門であったことは、この特集ではじめて知った。石鼎の主宰誌「鹿火屋」には、ひところ毎号のように詩を書いていたそうだ。ところで、小澤氏は「庫裏(くり)」を本意のままに台所と読んでいるが、これは転じた意味での居間ないしは住居のほうだろう。すなわち「縁」は縁側であって、寺の縁側に、訪ねてきた人の「帽子」と「冬瓜」がぽつねんと置かれている。秋真昼、人影はない。ただ、それだけのことである。しかし、それだけのことが伝えてくるイメージは、いかにもこの国の寺に固有の雰囲気だ。おそらくはソフト帽であろう帽子からは訪問者の人品骨柄がうかがわれるので、傍らにある茫洋とした冬瓜からはミスマッチのとぼけた可笑しみが感じられる。そういえば、私たちの親しい寺にはどこか、こんな具合にいかめしくない情景がついてまわっている。作者は一流のデザイナーでもあったから、このような物の配置は得意中の得意だったと思う。主宰詩誌「VOU」のデザインも素敵だったなア。まだ木造だった新宿紀伊国屋書店で、私がいちばんはじめに買った詩誌が「VOU」であった。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます