深酒や名月の位置定まらず。無月かなかくもどろりと養命酒。どっちもどっちなりき。




2002ソスN9ソスソス22ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 2292002

 空に柚子照りて子と待つ日曜日

                           櫛原希伊子

語は「柚子(ゆず)」で秋。快晴。抜けるような青空に、柚子の実が照り映えている。「日曜日になったらね」と、作者は子供と出かける約束をしている。遊園地だろうか。約束の日曜日も、こんなに見事な上天気でありますように……。庭で洗濯物を干しながら、学校に行っている子供のことをふっと思いやっている。たとえば、そんな情景だ。大人にとっては、ことさらに特別な約束というのではないけれど、子供にしてみれば、大きな約束である。学校にいても、ときどき思い出しては胸がふくらむ。「はやく、日曜日にならないかなあ」。作者は、というより人の子の親ならば誰でも、そうした子供の期待感の大きさをよく知っているから、「子が待つ」ではなくて「子と待つ」の心境となる。さて、その待望の日曜日がやってきた。母子は約束どおりに、上天気のもと、機嫌よく出かけられたのだろうか。私などは、何度も仕事とのひっかかりで出かけられないことがあったので、気にかかる。作者も自註に、約束が果たせないこともあって、「また今度ね」と言ったと書いている。がっかりして涙ぐんだ子供の顔が、目に浮かぶ。よく晴れていれば、がっかりの度合いも一入だろう。掲句は言外に、何かの都合で約束が反古になるかもしれぬ、いくばくかの不安を含んでいるのではあるまいか。そう読むと、ますます空に照る柚子の輝きが目に沁みてくる。『櫛原希伊子集』(2000・俳人協会)所収。(清水哲男)


September 2192002

 名月を取てくれろとなく子哉

                           小林一茶

名な『をらが春』に記された一句。泣いて駄々をこねているのは、一茶が「衣のうらの玉」とも可愛がった「さと女」だろう。その子煩悩ぶりは、たとえば次のようだった。「障子のうす紙をめりめりむしるに、よくしたよくしたとほむれば誠と思ひ、きやらきやらと笑ひて、ひたむしりにむしりぬ。心のうち一點の塵もなく、名月のきらきらしく清く見ゆれば、迹(あと)なき俳優(わざをぎ)を見るやうに、なかなか心の皺を伸しぬ」。この子の願いならば、何でも聞き届けてやりたい。が、天上の月を取ってほしいとは、いかにも難題だ。ほとほと困惑した一茶の表情が、目に浮かぶ。何と言って、なだめすかしたのだろうか。同時に掲句は、小さな子供までが欲しがるほどの名月の素晴らしさを、間接的に愛でた句と読める。自分の主情を直接詠みこむのではなく、子供の目に託した手法がユニークだ。そこで以下少々下世話話めくが、月をこのように誉める手法は、実は一茶のオリジナルな発想から来たものではない。一茶句の出現するずっと以前に、既に織本花嬌という女性俳人が「名月は乳房くはえて指さして」と詠んでいるからだ。そして、一茶がこの句を知らなかったはずはないのである。人妻だった花嬌は、一茶のいわば「永遠の恋人」ともいうべき存在で、生涯忘れ得ぬ女性であった。花嬌は若くして亡くなってしまうのだが、一茶が何度も墓参に出かけていることからしても、そのことが知れる。掲句を書きつけたときに、花嬌の面影が年老いた一茶の脳裏に浮かんだのかと思うと、とても切ない。「月」は「罪」。(清水哲男)


September 2092002

 わが葉月世を疎めども故はなし

                           日野草城

語は「葉月」で秋、陰暦八月の異称。「朝ぼらけ鳴く音寒けけき初雁の葉月の空に秋風ぞ吹く」(眞昭法師)。この歌を読んで、わっ、めちゃめちゃな季重なりと、瞬間感じたのは私だけでしょうか。完璧な俳句病です(笑)。歌のように、朝夕はもう寒いくらいだけれど、日中はまだ暑い日が多いのが、いまごろの「葉月」という月だ。春先と同じで、なんとなく情緒不安定になりやすい。まさに「故はなし」であるのだが、草城は病気がちだったので、やはり身体的不調も加わっていたのではなかろうか。暑いなら暑い、寒いなら寒いのがよい。原稿をもらいに行ったときに、いかにもだるそうに呟いた黒田喜夫の顔を思い出した。筆の遅い詩人だったが、暑からず寒からずの季節には、一日に一行も書けない日があった。電話がない家だったので、とにかく神田から清瀬まで、連日通い詰めたものだ。句に従えば「世を疎(うと)」んじていたはずだから、「世」を代表しているような顔つきの編集者なんぞには、会いたくもなかっただろう。と、今にして思う。もう、三十数年も昔の話だ。ただし、この句からそんなに暗い印象は受けない。無理やりにも「故はなし」と、自分で自分に言い聞かせているところが、どことなくユーモラスで、読者の気持ちをやわらげるからだろう。『日野草城句集』(2001)所収。(清水哲男)




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