さあ、大阪から帰省ラッシュとの激突(笑)だ。東海道線で立ちっぱなしの若き日あり。




2002ソスN8ソスソス18ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 1882002

 流れよる枕わびしや秋出水

                           武原はん女

秋出水
には、しばしば集中豪雨や台風のために洪水に見舞われる。これが「秋出水(あきでみず)」。昔は、一村が流出することも珍しくはなかったという。田舎にいたころ、目覚めたら、土間に下駄がぷかりぷかりと浮いていた経験が、何度かある。水は低きに流れる。なんて小学生の常識だけれど、本当にそうなんだと納得できたのは、あのときだった。句は、大荒れの天候が一段落した後の情景だ。上流からは、実にいろいろなものが流れてくる。東京の多摩川近くに住んでいたことがあるので、私にもよくわかる。折れた大きな木の枝だとか材木だとか、濁流に翻弄されて形も定かでないいろいろなものが……。そんななかに「枕」があるのを、作者は認めた。枕の主の家は、たぶん流失したのだろう。そう思うと「わびしや」と言うしか、他に言葉がないのである。俳句にうるさい人は、この「わびしや」がくどくてうるさいと言うかもしれないけれど……。作者の武原はんは、地唄舞の名手だった。明治三十六年徳島に生まれ、十二歳で大阪の大和屋芸妓学校に入学。三味線・囃子・狂言・能・仕舞などの芸を学んだ後上京し、高浜虚子(俳句)藤間勘十郎・西川鯉三郎(舞踊)に師事。山村流を独自のものとし、代表作に「雪」「鐘の岬」などがある。写真は、特大の「秋出水」に見舞われたドイツのテレビ局ZDFのサイトより借用。『合本俳句歳時記』(1974・角川書店)所載。(清水哲男)


August 1782002

 暑き日の證下界に光るもの

                           山口誓子

子は登山をよくしたから、山の句も多い。頂上まで登る途次に、一休みで「下界」を見下ろした。煙草を喫う人だったかどうかは知らないけれど、一服しながら眺める下界の様子は心に沁みる。あんなに低い所から登ってきたという達成感もあるが、それ以上にあるのは、あそこには人々の暮らしがあるのだという感慨だろう。高い山には、まったく暮らしの匂いがない。ないから、ごく自然に「下界」(人間界)と口をついて出てくる。それにしても、ヤケに暑い日だ。何度くらいだろうか。見やっている下界では、ところどころで何かが陽射しを反射して強烈に光っている。あれが暑さの「證(あかし)」だ、道理で暑いわけだと、納得している。山の子だった私には、かつて見慣れた光景だが、下界に「光るもの」と言われて、あらためて気づいたことがある。人が暮らす場所には、必ず「光るもの」があるということ。川や海も光るが、もっと鮮烈に光るものと一緒に人は暮らしているということだ。昔は土蔵の白壁だったり屋根瓦だったり、いまではビルの窓ガラスや車のボディだったりするわけで、地上ではさして気にもとめないでいる「光るもの」が、高い山なる「天界」から見ればまことに鮮やかに写るのである。となれば、あの世には「光るもの」などない理屈だと、妙なことまで思ってしまった。『山嶽』(1990・ふらんす堂文庫)所収。(清水哲男)


August 1682002

 精霊舟草にかくるる舟路あり

                           米沢吾亦紅

語は「精霊舟(しょうりょうぶね)」で秋。送り盆の行事の終わりに、供え物を流すときの舟。多くの歳時記には真菰(まこも)や麦わらで作ると書かれているが、私の故郷(山口県)の旧家あたりでは木造だった。盆が近づいてくると、農作業のひまをみては、少しずつ作り上げていく。立派なのになると、大人が両手でやっと抱えられるほどの大きさだ。本番で転覆しないように、慎重に何度もテストを重ねる。テストは昼間だったので、よく見にいった。我が家は分家で墓がないため、盆とは無縁だったけれど、むろんそのほうがよいに決まっているが、この舟だけは単純に欲しかった。「ウチにもハカがあったらなあ……」などと、ふとどきな妄想を抱きつつ、テストを見ていたものだ。さて、本番の夜。小学校の校庭での盆踊りが終わると、舟たちの出番がやってくる。学校から道一つ隔てた川にみんなで集まり、腰まで水につかった若い衆が、一つ一つ舟や燈籠を受け取っては流していく。さきほどまでの盆踊りの喧騒が嘘のように静まり、誰もが無言で川面を行くものを眺めていた。なかにはすぐに岸辺にひっかかるのもあり、若い衆が長い竹竿で「舟路」に戻してやっていた。句のように、やがて「草にかくるる」舟路だったから、儀式には一時間もかからなかったと思う。終わると、真っ暗な道を大人たちはどこかに飲みに行き、子供は寝るために家に戻った。『新日本大歳時記・秋』(1999)所載。(清水哲男)




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