いまの子はひ弱だ。ボランティアで子供とつきあってるおじさんが異口同音にそう言う。




2002萩蛛i前日までの二句を含む)

July 2972002

 冷淡な頭の形氷水

                           星野立子

かき氷
い日がつづきます。氷水など如何でしょう。私の好きな「宇治金時」。デザイン的に「冷淡な頭の形」を餡で覆って、冷淡に見えないように工夫された(のかどうかは知らないけれど、そんな気がする)発明品だ。掲句は、正直言ってよい出来ではない。でも、後世のために(笑)書いておくべきことがあるので、取り上げた次第。すなわち、立子は主に東京や鎌倉で暮らした人だったから、氷水(かき氷)というと「冷淡」とイメージしていたのだろう。面白い見方とは思うが、何を言っているのかわからない人も大勢いるはずだ。というのも、東京近辺の氷水はシロップを器に入れてから、その上に氷をかく。したがって、「頭」部は写真の餡を取り払った感じになり、氷の色そのものしか見えないので、なるほどまことに冷淡に写る。が、名古屋以西くらいからは、氷をかいた上にシロップを注ぐ。と、見かけはちっとも冷淡じゃなくなる。九州の一部の地方では、まずシロップを入れて氷をかき、その上に重ねてシロップを注ぐという話を聞いたことがあるが、真偽のほどは確認できていない。いずれにしても、俳句を読むときに厄介なのは、こうした地方的日常性や習慣習俗などをわきまえていないと、とんでもない誤読に陥ってしまうケースがよくあるということだ。当サイトでも、かくいう私が何度も誤読してきたことは、読者諸兄姉が既にご承知の通り。ましてや、時代を隔てた句となると、作者の真意をつかむのが余計に難しくなる。誤読もまた楽し、と思ってはみるものの、あまりのそれは恥ずかしい……。ところで写真の宇治金時は、一つ5,500円也。550円の誤記ではありません。何故なのかは、おわかりですよね。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


July 2872002

 腰の鎖じゃらじゃら鳴らしラムネ飲む

                           古澤千秋

語は「ラムネ」で夏。日常的な飲み物ではないが、祭や観光地に出かけると、ふっと飲みたくなったりする。私などちっとも美味くないとは思うけれど、遊び心にマッチした飲み物ではあるだろう。しかし、句の様子からすると、主人公は遊び心で飲み、ひとりでに「腰の鎖」が「じゃらじゃら」鳴っているのではない。「鳴らし」とあるからには、故意である。すなわち、演技的に鳴らしているのだ。そもそも腰に鎖をつけること自体が、演技的である。では、なぜ鳴らしているのか。大づかみに、二つ考えられる。一つは、これみよがしに自分の存在を誇示しているケース。もう一つは、自分のなかに倦怠感など鬱屈したものがあって、苛立ちを身体で表現しているケースだ。そのどちらであるかは、句からだけでは第三者にわかりっこない。けれど、飲んでいる人は女性だから、たいがいの男にはコケティッシュに写るにちがいないと思った。なかなか「いいじゃん」と、少なくとも私には写る。何がいいのかと聞かれても困るのだが、「じゃらじゃら」の響きにはどこか崩れた調子、投げやりな感じがあって、そういうところに他愛なく惹かれるのが、おおかたの男というものだろう。ただし、鳴らしすぎては逆効果になることもあるから難しい。過度になると「甘ったれんじゃねえ」みたいな反応も起きてくる。実際に鳴らしている人は、そんなことには無関心かもしれないが、作句者の立場からはそのへんを十分に意識してのことだろうと思われた。「じゃらじゃら」は「チャラチャラ」にも通じ、両方とも好みの表現だが、実際にいざ俳句で使うとなると、想像以上に難しいんだろうなあ……。そんなことを、チャラチャラと思って遊んでいる日曜日です。俳誌「ににん」(2002年夏号)所載。(清水哲男)


July 2772002

 蚊帳といふ網にかかりし男かな

                           穂積茅愁

かや
語は「蚊帳(かや)」で夏。蛇足ながら、「蚊帳」の読みは漢字検定2級程度のレベルだそうです。昔は必需品だったが、今はなつかしい思い出の一部となってしまった蚊帳。「蚊帳吊りし昭和の釘の残りけり」(成井侃)。蚊帳をくぐって入れば、そこは別世界のように思われた。いわば、部屋の中の部屋。透けてはいるけれど、密室に入った感じがした。緑がかった色で赤い縁取りのある蚊帳が多かったのを記憶している。が、あれはいかなる発想から決められた色なのか。寝具の老舗「西川」のHPによれば、次のようだ。「今日、蚊帳といえば、萌黄(もえぎ)色に紅布の縁がついたものをイメージするが、これがいわゆる近江蚊帳であり、そのデザインを考案したのが二代目甚五郎であった。一説によれば、甚五郎が商用で江戸に下る途中、箱根で『夢の啓示』をうけ、新緑に日がさしている美しいイメージを再現したものといわれる。緑と赤のモダンな色彩の近江蚊帳が評判をよび、やがて蚊帳全体の代名詞ともなり、広く普及していくのである」。ものが蚊帳だけに、夢の啓示か(笑)。しかし、新緑に日が射しているイメージとは驚く。はじめて知った。そんなイメージを、蚊帳に思い描いたことは一度もなかった……。そしてまた、色も世に連れるというわけで、最近でも売られている蚊帳の色は白色が主流のようである。さて、掲句については、言うだけヤボだ。密室に引き込まれてしまえば、それだけで勝負はついたも同然なり。他人事みたいに書いてはいるけれど、ま、読者の御想像にまかせましょうというところか。絵は弄春齋榮江。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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