商店街は、例年にもまして懸命の中元セール。そうか、もうボーナスの季節なんだな。




2002ソスN7ソスソス3ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 0372002

 羅に透けるおもひを怖れをり

                           櫛原希伊子

語は「羅(うすもの)」で夏。絽(ろ)、紗(しゃ)など、絹の細い繊維で織られた単衣のこと。薄く、軽やか。女性ものが多い。作者自註、「たいした秘密でないにしても、知られたくないこともあるもの。透けるとしたら絽よりも紗の方があやうい気がする」。肌や身体の線が透けることにより、心の中までもが透けて見えてしまいそうだというこの感覚は、まず、男にはないものだろう。俳句を読んでいると、ときおりこうしたさりげない表現から、女性を強く感じさせられることがある。作者は別に自分が女であることを強調したつもりはないと思うが、男の読者は「はっ」とさせられてしまうのだ。逆に意識した例としては、たとえば「うすものといふをはがねの如く着て」(清水衣子)があげられる。薄いけれども「はがねの如く」鋭利なのだよと言うのだが、むしろこの句のほうに、作者の心の内がよく見て取れる面白さ。いずれにしても、女性でなければ発想できない世界だ。前述したように、本来「羅」は和装衣を指したが、最近では夏着一般に拡大して使うようになってきた。小沢信男に「うすものの下もうすもの六本木」がある。この女性たちに、掲句の味わいというよりも、発想そのものがわかるだろうか。私としては、問うを「怖れ」る。『櫛原希伊子集』(2000)所収。(清水哲男)


July 0272002

 夜へ継ぐ工場の炎や半夏雨

                           角川源義

語は「半夏雨(はんげあめ)」で夏。夏至から数えて十一日目(仏教的には夏安居の中日。すなわち本日)の「半夏生(はんげしょう)」に降る雨のこと。サトイモ科の半夏(烏柄杓の漢名)の花が咲くころなので、この名があると言われる。梅雨も末期にかかってくるこの時期には、大雨の降ることが多い。当然に農家は警戒しただろうし、農業人口の比率の多かった昔には、今日ではほとんどの人が知らない「半夏生」も、かなり一般的な言葉だったようだ。「半夏半作」という言葉もあって、この日までには田植えを終えたというから、農事上の一つの目安とされていた日だと知れる。掲句の素材は農事ではないけれど、こうしたことを思い合わせると、農作業に通じる地道な労働へのシンパシーが感じられる。何を作っている工場なのか。わからないが、おそらくは本降りであろう雨を透かして、見えている町工場の仕事の「炎」が目に鮮やかなのだ。「夜に継ぐ」だから、時はたそがれであり、なおさらに炎の色は濃い。そして、作者はこの炎が絶やされずに、夜の残業時間へと引き継がれていくことを思っている。「神聖な労働」と言ったりするが、この句には何かそうした価値観に通じる作者の真心が滲み出ていると感じられた。『合本俳句歳時記・新版』(1988)所載。(清水哲男)


July 0172002

 滝田ゆうの夕焼横町抜ケラレマス

                           倉橋羊村

パロディ
語は「夕焼」で夏。作者添え書きに「滝田ゆうの画展で『墨東奇譚』のこの看板の横町が描かれた」(「墨」にはサンズイがつくが、ワープロにないのでご容赦を)とある。戦前の荷風のこの小説を踏まえたのが、戦後の滝田ゆうの漫画『寺島町奇譚』だ。物語はさておいて、いずれも舞台は浅草からほど近い玉の井である。荷風の時代には一大私娼窟があり、夜ともなると男どもの遊び場としてにぎわった。荷風によれば、玉の井は「ごたごた建て連なった商店の間の路地口には『ぬけられます』とか、『安全道路』とか、『京成バス近道』とか、あるいは『オトメ街』あるいは『賑本通(にぎわいほんどおり)』など書いた灯がついている」というたたずまいであった。ところが、この「ぬけられます」。看板に偽りありもいいところで、路地を入るとさらに細い路地や横丁が交錯し、通い慣れた人でもグルグル同じところをめぐるハメに陥ったという。一度入ったら出られないラビラント(迷宮、迷路)は、やたらと多い交番、風呂屋、お稲荷さんと並んで玉の井名物だったらしい。現在でも、ややこしく入り組んだ細い道が、昔を彷彿させる。そんな街の「夕焼」と「抜ケラレマス」の看板。滝田ゆうの展覧会を見ているうちに、この絵の前で釘付けになった。それも玉の井そのものへの郷愁というのではなく、古き時代の庶民の街への何とも言えない懐かしさからだろう。たとえ夜は繁華でも、それだけに夕焼けのころにはまだ淋しい感じのする街が、昔はあちこちにあった。荷風も滝田も、そして作者もまた、その淋しさをこよなく愛している。手元に滝田ゆうの本がないので、雰囲気をつかんでいただくために、この滝田の作品をパロディ化した長谷邦夫「特出し町奇譚」の一コマ(『パロディ漫画大全』水声社・2002)を掲額しておく。えっ、誰ですか、「ぶち壊しだ」なんて言うのは(笑)。これまたパロディ、ね。ダーン。「俳句」(2002年7月号)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます