故あって、本日はパソコンそれ自体と格闘することに。故障ではないので、多少気は楽。




2002ソスN6ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 1662002

 国あげてひがし日傘をさしゆけり

                           大井恒行

くは、わからない。が、ずうっと気になっていた句。漠然とした理解では、「国あげて」同じ一つの方向(ひがし)に日傘の行列が歩いていくということだろう。ぞろぞろと何かに魅入られたように、みなが炎天下を同じ方角を目指して歩いているイメージは、とても不気味だ。「国あげて」だから、一億の日傘の華が開かれている。「さしゆけり」ゆえ、もはや後戻りはできない行列である。すでに出発してしまった以上は、もう誰にも止めることはできない行進なのだ。では、何故「ひがし」なのか。「日出づる処の天子」の大昔より、この国の為政者にとって東方に位置することそれ自体が価値であり、プライドの源であった。たとえば明治節の式歌にも「アジアの東、日出づるところ、ひじり(聖)の君のあらはれ(現れ)まして、……」とあって、とにかく東方は特別な方角なのだ。逆に西方には十万億土があるわけで、こちらは死後の世界だから暢気に日傘などさして行ける方角ではないだろう。つまり掲句は、国民があげて無自覚に一つの方向に引きずられていく状況を、比喩的に語っている……。ただ、よくわからないのは「ひがし」の用法だ。「ひがし」は「東」であるとしても、「ひがし『へ』」とは書いてない。もしも、この「ひがし」が方角を表していないのだとすれば、私の漠然たる理解も完全に吹っ飛んでしまう。何故、中ぶらりんに「ひがし」と吊るしてあるのだろうか。ぜひとも、読者諸兄姉の見解をうかがいたいところだ。『風の銀漢』(1985)所収。(清水哲男)


June 1562002

 六月の女すわれる荒筵

                           石田波郷

者が実際に見た光景は、次のようだった。「焼け跡情景。一戸を構えた人の屋内である。壁も天井もない。片隅に、空缶に活けた沢瀉(おもだか)がわずかに女を飾っていた」(波郷百句)。「壁も天井もない」とは、ちゃんとしたそれらがないということで、四囲も天井もそれこそ荒筵(あらむしろ)で覆っただけの掘っ立て小屋だろう。焼け跡には、こうした「住居」が点在していた。女が「六月」の蒸し暑さに堪えかねたのか、壁代わりの筵が一枚めくり上げられていて、室内が見えた。もはや欲も得もなく、疲労困ぱいした若い女が呆然とへたり込んでいる。句の手柄は、あえて空缶の沢瀉を排して、抒情性とはすっぱり手を切ったところにある。句に抒情を持ち込めば哀れの感は色濃くにじむのだろうが、それでは他人事に堕してしまう。この情景は、詠まれた一人の女のものではなく、作者を含めて焼け跡にあるすべての人間のものなのだ。哀れなどの情感をはるかに通り越したすさまじい絶望感飢餓感を、荒筵にぺたんと座り込んだ女に託して詠みきっている。焼け跡でではなかったけれど、戦後の我が家は畳が買えず、床に荒筵を敷いて暮らしていた。あの筵の触感を知っている読者ならば、いまでも胸が疼くだろう。『雨覆』(1948)所収。(清水哲男)


June 1462002

 スリッパのまま誰ぞすててこ穿かんとす

                           大住日呂姿

語は「すててこ」で夏。命名は、明治期に三遊亭円遊が寄席で踊った「すててこ踊り」に由来するという。汗を吸い取ってくれる、だぶだぶの男物の下穿きだ。最近はズボンの線が崩れるとかで、穿(は)かない男が多い。最初に公然と「ダサい」と言ったのは、デビュー当時の加賀まりこだった。それはともかく、作者は「誰ぞ」ととぼけてはいるけれど、むろん自分だろう。よほどあわてていたのか、普段はこんなにおっちょこちょいではないのに、何故かなあと苦笑している。温泉場などでは、よくやってしまいそうな失敗だ。作者の本意はこれまでだろうが、私は笑ったと同時に、笑ってすまされないものも感じてしまった。還暦くらいの年齢になってくると、この種のことをしばしば引き起こすようになるからだ。身体が自然に覚えているはずの手順が、ときとして狂ってくる。そのたびに苦笑しながらも、だんだん笑い事でもなくなってくるのだ。そこで、あらかじめ手順を頭の中で組み立てて反芻しながら、いかにも自然を装いつつ行動に移す。温泉場なら、すててこを穿いてからスリッパを履き、穿いたら使ったタオルなどをきちんとして……。こういう手順をあらかじめ想定しておかないと、何かをやらかしたり忘れたりしてしまう。もちろん一事が万事ではないが、こういうことが徐々に増えてくる。そんな自分を思いつつもう一度掲句を読むと、「誰ぞ」はまぎれもなく「私」であることになる。『埒中埒外』(2001)所収。(清水哲男)




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