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June 0462002

 「武蔵」読むに武蔵の目つき花蜜柑

                           五味 靖

語は「花蜜柑(蜜柑の花)」で夏。作者、二十代の句。読んでいる「武蔵」は、吉川英治の『宮本武蔵』だろう。かつて一世を風靡した傑作で、徳川夢声のラジオでの朗読も人気があった。数多く映画化もされており、なかで内田吐夢が中村錦之助で撮った一連の作品が、私は好きだった。それこそ映画を見ていると、だんだん主人公に同化していくように、言われてみればたしかに読書でもそういうことが起きてくる。小休止でページから目を離し、遠く窓外を見やれば白い蜜柑の花の花盛りだ。見慣れた風景ではあるが、いつもとは違うように見える。それも道理で、自分の「目つき」がすっかり昂然たる武蔵のそれになっているからだと気がついた。句を分解すればそういう仕組みだろうけれど、むしろ丸のみにして味わうほうが良さそうだ。真剣に本の世界に没入している若者がいて、その若者を蜜柑の花の白色と芳香とが包み込んでいる。まことに、青春は美わしではないか。私にも、このような時期があった。それを掲句が遠望させ、ほとんど羨望の念で若き日のおのれを回想させる……。君知るや、この苦き心の切なさを。『武蔵』(2001)所収。(清水哲男)


May 2452011

 花蜜柑匂ふよ沖の船あかり

                           武田孝子

柑の花が咲く頃になると、街全体が清々しい香りで包まれる。作者の出身は愛媛というから、同じ蜜柑王国である静岡出身の私の気分は大いに満たされる。少女時代、周囲を見回せばどこにでもあった穏やかな山々は、どこもいっぱいの陽光を注がれ、蜜柑の花を咲かせていた。童謡の「みかんの花咲く丘」もまた「思い出の道、丘の道」と起伏の多い土地であり、「遥かに見える青い海、お船が遠く浮かんでる」と、思わず重ねてしまうが、しかし掲句の眼目は夜であることだ。船の灯す沖の明かりの他は、ただ波音が繰り返される闇のなかに作者はいる。白く輝く花の姿はないが、作者にはまざまざと見えている。そしてその闇に咲き匂う純白のたたずまいこそ、作者が愛してやまない故郷そのものなのだろう。蜜柑の花は蜜柑の匂いがする。それをしごく当然と思っていたが、林檎や梨の花にはまったく果実の匂いがしない。こんなことにもなんとなく誇らしく思えるのだから、故郷というのは素敵である。『高嶺星』(2006)所収。(土肥あき子)




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