蟄」隱槭′闃崎脈縺ョ句

May 2252002

 芍薬や枕の下の金減りゆく

                           石田波郷

語は「芍薬(しゃくやく)」で夏。花の姿は牡丹(ぼたん)に似ているが、芍薬は草で、牡丹は木だ。牡丹が散りだすと、芍薬が咲きはじめる。療養中の句だろう。病室から見える庭に芍薬が咲いているのか、あるいは見舞客が切り花で持ってきてくれたのか。「立てば芍薬」の讃め言葉どおりに、すっと背筋を伸ばした芍薬が咲き誇っている。対するに作者は横臥しているので、この構図からだけでも、病む人のやりきれなさが浮き上がってくる。さらに加えて、「金(かね)」の心配だ。長期入院の患者は、売店で身の回りのものを買ったりするために、いくばくかの現金を安全な「枕の下」にしまっておくのだろう。その金も底をついてきた。補充しようにも、アテなどはない。そんな不安のなかでの芍薬の伸びやかに直立している様子は、ますます病気であるゆえのもどかしさ、哀れさを助長するのである。枕の下の金で、思い出した。晩年はほとんど自室で寝たきりだった祖母が亡くなった後、布団を片づけたところ、枕の下から手の切れるような紙幣がごそっと出てきたそうだ。紙幣はすべて、何十年か以前に発券された昔のものばかりであったという。『俳諧歳時記・夏』(1968・新潮文庫)所載。(清水哲男)


June 0262015

 芍薬の蕾のどれも明日ひらく

                           海野良子

薬はしなやかでやさしい姿を表す「綽約(しゃくやく)」に由来するともいわれ、美人のたとえである「立てば芍薬」はすらりと伸びた茎の先に花を付ける様子を重ねている。咲ききった満開の美しさもさることながら、「明日、咲きます」のささやきが聞こえるほどのほころびは艶然と微笑む唇を思わせ、やわらかなつぼみの隙間から幾重の花びらがほどかれるきざしに、詰まった襟元をゆるめるようななんともいえない色気を感じさせる。約束された満開という幸福を待つ、このうえない幸せの時間。芍薬はつぼみの頃から蜜をこぼし、虫たちを招くという。これもまた芍薬のあやしい魅力のひとつなのかもしれない。『時』(2015)所収。(土肥あき子)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます