何日ぶりだろう、終日家にいられるのは。煙草の買い置きもある。ビールもある。よしっ。




2002ソスN5ソスソス19ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 1952002

 昼が夜となりし日傘を持ちつづけ

                           波多野爽波

生として京都に移り住んだとき、関西の男がよく日傘をさしているのを見て、軽いカルチャー・ショックを受けたことを思い出した。さすがに若者はさしていなかったが、老人には多かった。夜の日傘。これぞ、絵に描いたような無用の長物だ。捨ててしまうわけにもいかず、何の役にも立たない長物を持ち歩く鬱陶しさ。句の様子からして、昼間もあまり使わなかったのかもしれない。不機嫌というほどでもないが、なんだか自分が馬鹿みたいに思われてくる。周囲の人たちは傘を持たずに歩いているので、余計にそう感じられる。たった一本の傘でも、さざ波のように苛立つ心。とくに傘嫌いの私には、よくわかる句だ。しかも、第三者たる読者には、なんとなく滑稽にさえ読める。以下、参考までに日傘の成り立ちを『スーパー・ニッポニカ2002』(小学館)より引き写しておこう。「元来は子供のさすものであった。江戸時代初期、男女ともに布帛(ふはく)で顔を包み隠すことが行われ、これを覆面といって、外出には欠くことのできないものであった。ところが17世紀中ごろ、浪人たちによる幕府転覆計画が発覚し、幕府は覆面の禁令を発布した。このため男女ともに素顔(すがお)で歩かざるをえなくなり、笠のかわりに、大人も日傘を用いるようになった。女性のさし物として日傘が定着したのは、宝暦(ほうれき)年間(1751〜64)からである」。イスラム教徒の女性が顔を隠す風習を奇異と見るのは、どうやら筋違いのようですね。『舗道の花』(1956)所収。(清水哲男)


May 1852002

 夏に入るや亀の子束子三つほど

                           西野文代

語は「夏(げ)に入る(夏入)」で夏。立夏や夏至のことではない。僧侶が、屋内に籠って静かに行を修することをいう。期間は必ずしも一定していないようだが、だいたい旧暦四月中旬から七月中旬までの間で、「安居(あんご)」「夏行(げぎょう)」などとも。この期間、外に出ると蟻やその他の虫を踏み殺すというので、一切外出しないのが本来の夏入だという説もある。お坊さんも大変だ。作者は寺の多い京都の人だから、ふとそのことを思い出して、お坊さんほどに精進はできないにしても、せめて家中の汚れものや浴室をピカピカに磨こうかと「亀の子束子(かめのこたわし)」を求めたのだろう。一つではなく「三つ」も買ったところに、気合いを入れた感じが出ている。作者によれば、求めた店は先斗町北詰にある荒物屋。「そこだけがまるで時代から取り残されたように昔のたたずまいを残している。荒物屋といっても棕櫚製品だけを扱っている店だ。今どき、こんなものがと思われるようななつかしい品々がひっそりと並べられている。荒神箒の大中小、刷毛の大中小、更に豆刷毛の大中小、縄も太いの細いのに中細。柄付束子の大中小に亀の子束子の大中小。……」。しかも、店番をしているのが「大正か昭和のはじめ頃から抜け出てきたような小母さん」だというから、ここで「夏入」の季節を思い出すのはごく自然のことかもしれない。それにしても、京都にこんな店が生き残っているとは。どなたか発見されましたら、ご一報を。『おはいりやして』(1998)所収。(清水哲男)


May 1752002

 友情よアスパラガスに塩少々

                           中田美子

語は「アスパラガス」で夏。サラダ・ブームまでの日本人はあまり食べなかったので、季語として載っていない歳時記のほうが多い。近年出た講談社の『新日本大歳時記』が採用しているが、春季に分類されている。しかし、収穫期は四月下旬から七月上旬くらいまでだから、夏季のほうが妥当ではあるまいか。さて、掲句は「友情」のほどよい度合いを詠んでいる。「アスパラガスに塩少々」くらいが、お互いに負担もかからず、心地よいと……。同じようなことは、他にもさまざまに言い換えられるけれど、茹でたグリーン・アスパラの鮮やかな色彩とほどよい食感に託したことで、新鮮な説得力を持ちえた。太宰治の『走れメロス』や与謝野鉄幹の「♪友を選ばば書を読みて六分の侠気四分の熱」(「人を恋ふる歌」)的な友情のありようは、暑苦しくてかなわないということでもあるだろう。そのあたりのことも「塩少々」と、さらりとかわしてみせている。現代版「水魚の交わり」というところか。話はいきなり飛びますが、アスパラガスの缶詰って、底のほうを開けるんですね。長い間知らなくて、なんとも取りだしにくいなあと難儀してました。缶詰の横腹に、底から開けよとちゃあんと書いてあるのに。『惑星』(2002)所収。(清水哲男)




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