先週の東奔(群馬県榛東村行き)につづき今週は西走(久留米行き)だ。ああ、休みたい。




2002ソスN5ソスソス11ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 1152002

 夏落葉有髪も禿頭もゆくよ

                           金子兜太

語は「夏落葉」。常磐木落葉(ときわぎおちば)という季語もあるように、夏に落葉するのは椎や樫などの常緑樹。落葉樹は晩秋に葉を落とすが、これは寒くて日照時間の少ない冬を生きのびるために、なるべくエネルギーを使わないですむようにとの自然の自衛策だ。対するに、常緑樹の落葉は加齢にしたがっての老化現象による。葉の寿命は、一般的には二、三年だそうだ。したがって、人間の髪の毛が脱落する原因は、常緑樹のそれに似ていると言えるだろう。句は、ひっそりと葉の舞い落ちてくる道を大勢の人が歩いているという、何の変哲もない情景設定だ。その歩いている人たちを、あえて「有髪(うはつ)」と「禿頭(とくとう)」に着眼し分類してみせたところが面白い。有髪であれ禿頭であれ、常緑樹だってホラこのように葉を落とすのだから、五十歩百歩でたいした違いがあるわけじゃない。すでに禿頭の作者は、達観しているというのか居直っているというのか、なんだか愉快な気分にすらなっている。有髪の人だと、こういうことは思いつきもしないだろう。そこがまた、掲句が何がなしペーソスすら感じさせる所以でもあると思った。それにしても、兜太ほどに禿頭句を多産している俳人はいない。そのあたりを考え合わせると、達観からでも居直りからでもなく、もはや「愛」からであると言うべきか。『金子兜太集・第一巻』(2002・筑摩書房)所収。(清水哲男)


May 1052002

 母郷つひに他郷や青き風を生み

                           沼尻巳津子

語は「青き風(風青し)」で夏。青葉のころに吹き渡るやや強い風のことで、「青嵐」「夏嵐」などとも。嵐とは言っても、晴れ晴れとした明るい大風だ。掲句は、母をはじめとする母方の血縁者が「つひに」絶えてしまったことへの感慨である。作者は、ひとり残っていた血縁の者が亡くなって、葬儀のために久しぶりの「母郷」に出かけてきたのだろう。幼いころから、母と一緒に何度も訪れた土地である。楽しい思い出も、いっぱい詰まっている。しかし、この土地もこれで「他郷」となってしまった。もはや、二度と訪れることはないだろう。青葉が繁る美しい季節に、今年も昔と少しも変わらない「青き風」が生まれていて、これきり縁が切れてしまうなど信じられない。が、人の現実は時の流れに連れて変わるのだ。自然はそのままでも、人は同じからず……。明るい「青き風」のなかでの感慨ゆえに、いっそう「他郷」の現実が心に沁みる。昔も今も、一般的に父方の土地で生活する(生活した)人は多いが、母郷での生活者は少ない。したがって父郷はまたみずからの故郷なのだが、母郷はそうではない。血縁者以外に、友人知己はいないのが普通だろう。ここに、母郷に対する何か甘酸っぱいような思いがわいてくる。その一種甘美な思いが滲んだ良き土地とも、いつかこのような現実によって、すぱりと絶たれてしまうことが起きる。『背守紋』(1969)所収。(清水哲男)


May 0952002

 苗代に満つ有線のビートルズ

                           今井 聖

語は「苗代(なわしろ)」で春。現在では育苗箱で育てる方式が多いので、なかなか見られなくなった。句が1993年(平成五年)に詠まれていることからすると、まだ昔ながらの方式も細々とつづいているようだ。相当に大きな苗代田だろう。生長した若い苗がぎっしりと立ち並び、山からの風にそよぐ様子は、陳腐な形容だが絵のように美しい。植田のグリーンは淡くはかなげだが、苗代田のそれは濃くたくましい。その上を有線放送でビートルズの曲が颯爽と流れているのは、いかにも現代的で面白い。一昔前なら絶対に演歌だったろうが、有線の選曲担当者の世代も代替わりしてしまい、いまや演歌には関心を示さないのだ。村の古老たちはこのビートルズを聞いて、どんな思いでいるのだろう。ちょっとそんなペーソスも含み込んで、時代の移り行きに鋭敏な佳句である。蛇足めくが、句の有線(法規上では「有線ラジオ放送」)は都市の街頭放送などと同じ原理によるが、一定区域内に音響を送信する「告知放送」と呼ばれている。1956年(昭和三十一年)に農林省の新農山漁村建設計画で補助金が出たことから、急速に全国に普及した。主たる用途は災害時の緊急警報や役場からのお知らせにあったが、そんなにいつも告知すべき事柄があるわけじゃない。したがって、多くは役場の若者の趣味的音楽番組垂れ流しのメディアと化し、うるさいのなんのって……。いまでもほとんどの自治体に有線設備はあるけれど、さすがに日頃は送信しなくなってしまった。したがって、掲句のビートルズ放送は、極めて稀なケースでもある。『谷間の家具』(2000)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます