蟄」隱槭′陋、縺ョ句

April 1042002

 蛤をおさへて椀を傾けし

                           須原和男

語は「蛤(はまぐり)」で春。吸い物の蛤を、箸で「おさへて」飲もうとしている。さりげない所作の一瞬を詠んだ句だが、吸い物の香りが伝わってくるようで、唸らされた。そしてなによりも、ゆったりと食事を楽しんでいる作者の姿が彷彿としてくるところが素敵だ。好日感に溢れている。私などはせっかちだから、むろん箸で押さえはするのだけれど、そういうところには気持ちが行かない。偶然に行ったとしても、とても句にすることはできそうもない。些事中の些事をとらえて、これほどにゆったりとした時間と空間を演出できる腕前は、天性の資質から来ているのだろうと思えてしまう。句集を読むと、作者はこうした些事のなかに一種の好日感を流し込む名手だとわかる。「桃の花竿が布団にしなひつゝ」にしても、誰もが見かける情景ではあるが、作者ならではの措辞「しなひつゝ」でびしゃりと決まっている。干されている布団がまだ冬用の厚手のそれであることが示され、干している家の人の春爛漫の時を待ちかねていた気持ちが時空間的に暗示されている。暗くて寒い冬をようやく抜け出た喜びが、よく「しなひつゝ」に込められているからだ。感度の良さもさることながら、俳句的表現の特性をよく知っている人だと思った。『式根』(2002)所収。(清水哲男)




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