いつの間にか山吹が満開。今年の季節はぶっ飛ばしてる。梅雨は省略かもしれない。




2002ソスN4ソスソス9ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 0942002

 煎餅割つて霞の端に友とをり

                           藤田湘子

語は「霞(かすみ)」で春。気象用語ではないが、水蒸気の多い春に特有の、たなびく薄い雲を総称して霞と言う。当今のスモッグも、また霞だ。句の霞は実景だとしても、「友とをり」はフィクションだと思った。「煎餅(せんべい)」を食べながら遠くの霞を眺めるともなく眺めているうちに、ふっと遠い日のことを思い出した。そう言えばあいつとは、このような麗らかな春の日によく野山に遊んで、煎餅一枚をも分け合った仲の竹馬の友であったと……。その後、別れ別れになってしまったが、いまごろはどうしているだろう。元気でやってるかなあ。貧しかったが、楽しかった子供時代の追想だ。しかし、ひょっとすると、これはその友人の追悼句かもしれない。「霞の端」という措辞が、そういう可能性を読者に思わせる。霞の端は、もとよりぼんやりしている。しかも、空中に浮いている。そこに子供が二人ちょこんと腰掛けている絵を描けば、もはやこの世の情景ではない。さながら天国のような世界だからだ。そのように読めば、この煎餅を割るかそけき音もにわかに淋しく聞こえ、句全体がしいんと胸に迫ってくる。『白面』(1969)所収。(清水哲男)


April 0842002

 書道部が墨擦つてゐる雨水かな

                           大串 章

誌の月号表示を追い越すように、季節がどんどん進んでいく今日この頃、ならばと時計を二ヶ月ほど逆回転させても罰は当たるまい。季語は「雨水(うすい)」で春。根本順吉の解説を借用する。「二十四節気の一つ。陰暦正月のなかで、立春後15日、新暦では2月18、19日にあたる。「雨水とは「気雪散じて水と為る也」(『群書類従』第19輯『暦林問答集・上』)といわれるように、雪が雨に変わり、氷が融けて水になるという意味である」。早春の、まだひんやりとした部室だ。正座して、黙々と墨を擦っている数少ない部員たちがいる。いつもの何でもない情景ではあるのだが、今日が雨水かと思えば、ひとりでに感慨がわいてくる。表では、実際に雨が降っているのかもしれない。厳しい寒さがようやく遠のき、硯の水もやわらかく感じられ、降っているとすれば、天からの水もやわらかい。このやわらかい感触とイメージが、部員たちの真剣な姿に墨痕のように滲み重なっていて美しい。句には派手さも衒いもないけれど、まことに「青春は麗し」ではないか。こうしたことを詠ませると、作者と私が友人であるがための身贔屓もなにもなく、大串章は当代一流の俳人だと思っている。「書道部」と「雨水」の取りあわせ……。うめえもんだなア。まいったね。俳誌「百鳥」(2002年4月号)所載。(清水哲男)


April 0742002

 あんずの花かげに君も跼むか

                           室生犀星

語は「あんず(杏)の花」で春。梅の花に似ており、梅のあとに咲く。主産地が東北甲信越地方なので、雪国に春を告げる花の一つだ。金沢出身の犀星は、ことにこの花を愛した。「あんずよ/花着(つ)け/地ぞ早やに輝け/あんずよ花着け/あんずよ燃えよ/ああ あんずよ花着け」(「小景異情」その六)。掲句は、瀧井孝作の結婚に際して書き送った祝句。俳句というよりもすっかり一行詩の趣だけれど、日記に「瀧井君に送りし俳句一つ、結婚せるごとし」とある。後に「邪道」と退けてはいるが、碧梧桐の自由律俳句に共感を覚えていた頃の、当人にしてみればれっきとした「俳句」なのである。瀧井孝作もまた、碧梧桐の濃い影響下にあった。さて、掲句。「あんずの花」で、新妻の清楚な美しさを言っている。その「花かげ」に、ようやく「君も」まるで幼い人のように「跼(かが)む」ことができるようになったんだね、よかったね……。犀星も孝作も、幼いころから苦労の連続する境遇にあった。したがって作者は、妻という存在をどこか母親のようにも感じるところがあり、それを率直にいま「君」に伝える。いまの「君」ならば、きっと同じ気持ちになっていることだろう。おめでとう。そういう句意だろう。日記の「結婚せるごとし」からすれば、二人はさして親密な関係になかったように思われるかもしれないが、こういうことには世間的な事情がいろいろと絡みつく。風の便りに結婚と聞いて、いちはやく句を送ったところに、犀星の溢れる友情が示されている。句の中身もさることながら、私には二人の友情の厚さが強く響いてきて、余計にほろりとさせられた。北国のみなさん、杏の花は咲いてますか。『室生犀星全集』(新潮社)などに所収。(清水哲男)




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