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April 0742002

 あんずの花かげに君も跼むか

                           室生犀星

語は「あんず(杏)の花」で春。梅の花に似ており、梅のあとに咲く。主産地が東北甲信越地方なので、雪国に春を告げる花の一つだ。金沢出身の犀星は、ことにこの花を愛した。「あんずよ/花着(つ)け/地ぞ早やに輝け/あんずよ花着け/あんずよ燃えよ/ああ あんずよ花着け」(「小景異情」その六)。掲句は、瀧井孝作の結婚に際して書き送った祝句。俳句というよりもすっかり一行詩の趣だけれど、日記に「瀧井君に送りし俳句一つ、結婚せるごとし」とある。後に「邪道」と退けてはいるが、碧梧桐の自由律俳句に共感を覚えていた頃の、当人にしてみればれっきとした「俳句」なのである。瀧井孝作もまた、碧梧桐の濃い影響下にあった。さて、掲句。「あんずの花」で、新妻の清楚な美しさを言っている。その「花かげ」に、ようやく「君も」まるで幼い人のように「跼(かが)む」ことができるようになったんだね、よかったね……。犀星も孝作も、幼いころから苦労の連続する境遇にあった。したがって作者は、妻という存在をどこか母親のようにも感じるところがあり、それを率直にいま「君」に伝える。いまの「君」ならば、きっと同じ気持ちになっていることだろう。おめでとう。そういう句意だろう。日記の「結婚せるごとし」からすれば、二人はさして親密な関係になかったように思われるかもしれないが、こういうことには世間的な事情がいろいろと絡みつく。風の便りに結婚と聞いて、いちはやく句を送ったところに、犀星の溢れる友情が示されている。句の中身もさることながら、私には二人の友情の厚さが強く響いてきて、余計にほろりとさせられた。北国のみなさん、杏の花は咲いてますか。『室生犀星全集』(新潮社)などに所収。(清水哲男)




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