阪神勝利翌日の「デイリースポーツ」の題字は「ー」の部分が虎の尻尾の絵になる。




2002N42句(前日までの二句を含む)

April 0242002

 開く扉を春光射し入る幕間かな

                           村田 脩

語はむろん「春光(しゅんこう)」だが、似たような季語「春の日」が暖かい日差しを言うのに対して、やわらかく色めいた春の光線を言う。体感よりも心理的な感覚に重点が置かれている。芝居見物の句。前書きを読むと、明治座で山本富士子、林与一らの『明治おんな橋』を見たとある。出演者と題目から推して、華麗で幻想的な舞台が想像される。一幕目が終わり場内に灯がともされると、観客がざわざわと立ち上がり、扉(と)を開けて外に出ていく。舞台に吸い寄せられていた心に、徐々に現実が戻ってくる時間だ。作者も立って表に出るため、扉を押した途端に、まぶしい春の光が射し込んできた。戸外であればやわらかい光も、目を射るように感じられた。「春光射し入る」と字余りの硬い感じが、よくその瞬間を表現している。ここで一挙に現実が戻ってきたわけだが、これも芝居見物の醍醐味だろう。しかも、外は良い天気。舞台の楽しさもさることながら、芝居がはねた後も機嫌よく帰ることができると思うと、楽しさ倍増だ。そんな好日感が、はっしと伝わってくる。そしてまた席に戻り幕が開くと、「春の闇深うたちまち世も暗転」となって、再び舞台に集中するのである……。「俳句研究」(2001年5月号)所載。(清水哲男)


April 0142002

 万愚節ともいふ父の忌なりけり

                           山田ひろむ

ール・フールズ・デイ。訳して、すなわち「万愚節(ばんぐせつ)」。人間、みんな馬鹿である日。直截に「四月馬鹿」とも。いろいろな歳時記をひっくりかえしてみても、例句は多いのだが、面白い句は少ない。馬鹿を真面目に考えすぎてしまい、つい「まこと」などと対比させたりするからだろう。なかで掲句は、出色だ。実は二年前の今日にも採り上げた句なのだが、当時と違う感想を持ったので、再掲載することにした。命日だから、作者は父親の在りし日のことどもを自然に思い出している。思い出すうちに、その思いを通じて、人の生涯とは何なのかと、漠然とそんなところに思いが至る。そういえば、今日は「万愚節」。「ともいふ」という軽い調子が実に効果的で、父親の忌日の厳粛さをひょいと相対化してみせている。人はみな愚かなのであり、父親もそうだったのであり、そしてもとより我もまた……。作者の泣き笑いめいた心情が、よく伝わってくる。どこか可笑しく、それ以上にどこか哀しい句だ。ところで、四月一日に亡くなった俳人に、西東三鬼がある。1962年没。すかさず、石田波郷は「万愚節半日あまし三鬼逝く」と詠んだ。渡辺白泉は「万愚節明けて三鬼の死を報ず」と、乗り遅れた。両者の句も悪くはないが、掲句の醸し出す情感のこまやかさにはかなわない。『合本俳句歳時記』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)


March 3132002

 しやぼん玉西郷公を濡らしけり

                           須原和男

語は「しやぼん玉(石鹸玉)」で春。東京の花の名所、上野の山の西郷隆盛の銅像前。家族で花見に来た子供が、盛んにシャボン玉を吹いている。何気なく見ていると、美しい五色の玉が、風の具合で西郷さんに当たっては、ふっと消えていく。大きな西郷像に、束の間小さくて黒く濡れたあとが残る。それを「濡らしけり」と大仰に言ったところが面白い。で、いかめしい西郷さんの顔をあらためて振り仰ぐと、どことなくこそばゆそうだ。うんざりするほどの人、人、人で混雑しているなかでの、即吟かと思われる。花疲れの作者が、思わずも微笑している図。どこにも花見の情景とは書かれてないけれど、花見ででもなければ、子供が西郷公の下でシャボン玉で遊ぶわけがない。たいていの子供は花などにはさして関心がないので、このシャボン玉は親が退屈しのぎにと買い与えたのだろう。ところで花の上野は別格として、各地の「桜まつり」担当者などによく聞くのは、人寄せでいちばん苦労するのが、子供対策だそうだ。桜が咲けば、大人は放っておいても集まってくるけれど、子供はそうはいかない。春休み中なので、子供にサービスをしないと、親も来(られ)なくなってしまう。そこで、子供たちが喜びそうなアトラクションを必死に考える。テレビで人気のキャラクター・ショーを実現するには、半年以上も前に仕込まねばならない。だから、今年の東京のように二週間も開花が早まると、真っ青になる。子供のために仕込んだ芸能契約を反古にできないので、泣く泣くの「桜まつり」となる……。来週末の東京では、あちこちでそんな「葉桜まつり」が見られる。ENJOY !『式根』(2002)所収。(清水哲男)




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