昨日の強風にはマイった。職場からの帰途、目が痛くて、やむなくタクシーに乗る。




2002ソスN3ソスソス22ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 2232002

 斯く翳す春雨傘か昔人

                           高浜虚子

語は「春雨」。服部土芳の『三冊子』では、陰暦正月から二月初めに降る雨を「春の雨」とし、二月末から三月にかけての雨を「春雨」として区別している。今ごろから、しばらくの間の季節の雨……。暖かさが増してきてからの艶な感じを「春雨」に見ているわけだ。句の傘は洋傘ではなく、和傘だろう。しっとりとした雨のなかを歩いているうちに、ふと思いついて、粋な「昔人(むかしびと)」はどんなふうに傘をさしていたのだろうかと、いろいろとやってみた。芝居や映画の二枚目を思い出しながら、「斯(か)く翳(かざ)」したのだろうかなどと……。当人が真剣であるだけに、可笑しみを誘われる。その可笑しみを当人も自覚しているところが、なおさらに可笑しい。小道具が傘でなくとも、誰にでもこうした経験の一つや二つはあるだろう。男だったら、たとえば煙草の喫い方や酒の飲み方など、はじめのころにはたいてい誰かの真似をするものだ。私が煙草をやりだしたのは石原裕次郎が人気絶頂のころで、カッコいいなと思って当然のように真似をした。でも、これが何とも難しいのだ。煙草を銜えっぱなしにして、唇の左右にひっきりなしに動かさねばならない。当時はフィルターなしの両切り煙草だから、下手くそなうちは吸い口が唾液でぐしょぐしょになった。それでも、真似しつづけて何とかマスターできたころに登場してきたのが、フィルター付き国産第一号の「ハイライト」で、これだと実に容易にあっけなく唇で煙草を操れた。なあんだ、つまらねえ。と、その時点で真似は中止。おお、懐かしくも愚かなりし日々よ。『五百句』(1937)所収。(清水哲男)


March 2132002

 鍵ひとつ握らせてゐる花の下

                           今井 聖

見でのスケッチ。「握らせてゐる」というのだから、大人同士の受け渡しではなく、親が子供に鍵をしっかりと握らせているのだろう。まだ、そんなに大きくない子だ。急に体調が悪くなったのなら、親もいっしょに引き揚げるところだが、おそらく子供は退屈しきってしまい、先に帰ると言い出したにちがいない。「握らせてゐる」という所作のなかには、無くさないようにと念を押す気持ち以外にも、このまま一人で帰してよいものかどうかなど、親の逡巡が含まれている。しっかりと握らせることで、その逡巡を立ち切ろうとしている。親の困ったような顔と「だいじょぶだよ」とうなずいている子。しかし、子供もちょっと不安気だ。そんな様子が、目に浮かぶ。家族での行楽には、わがままが顔を出しやすいので、ときどきこういうことが起きる。ましてや歩くばかりの花見ともなれば、子供には弁当を食べることくらいしか面白いこともないのだから、すぐにイヤになってしまうのだろう。しかも、まわりは大人だらけである。そういえば、シクシク泣いている子をよく見かけるのも花見の道だ。さりげないスケッチながら、掲句はそのあたりの人情の機微を的確に捉えている。東京あたりでは、今日花見に繰り出す人々が多そうだが、なかには、きっとこういう親子もいるのでしょうね。『谷間の家具』(2000)所収。(清水哲男)


March 2032002

 かたまつて薄き光の菫かな

                           渡辺水巴

語は「菫(すみれ)」で春。「千葉県鹿野山(かのうざん)での作であり、山上に句碑が立っている。水巴の代表作の一つである」(山本健吉)。鹿野山の菫は知らないが、野生の菫の花の色はほとんどが濃い紫色だ。しかも「かたまつて」咲いているのならば、なおさらに色が濃く見えてしかるべきところを「薄き光の菫」と詠んでいる。作者には、淡い紫色に見えている。しかし、濃紫とはいえ、春の陽光に照らし出された花の色だからこそ、これでよいのだと思った。実際に花の一つ一つは濃いのだけれど、晴天の山上に咲く菫のひとむらはあまりにも小さな存在であり、あまりにも可憐ではかなげだ。そんな見る者の心理を写しての視点からすれば、むしろ濃い色とは見えずに、逆に「薄き光の菫」と見えるほうが自然の勢いというものだろう。無技巧なようでいて、まことに技巧的な句だと思う。苦吟のはての句かどうかなどは関係がないけれど、私などが羨望するのは、対象に心理の光りをすっと当てたように見せられる俳句的方法そのものに対してである。たいしたことを述べているわけではないのだが、この菫はいつまでも心に残る。残るからには、これはやっぱり、たいした俳句の力によるものなのだ。すなわち、掲句もたいした作品なのである。『合本俳句歳時記』(1997・角川書店)他に所載。(清水哲男)




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