高校入試シーズン。私の頃は情報などほとんどなかったから精神的には樂だった。今は大変そう。




2002ソスN2ソスソス10ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1022002

 春の闇幼きおそれふと復る

                           中村草田男

語は「春の闇」。夜の闇ではあるが、感覚的にはうるんだような、しろじろとした光りのあるような闇夜だ。どこか艶なる感じもあって、気分が安らぐ。掲句は、そんな闇のなかで眠りにつこうとしたときの、たまさかの心の揺らぎを詠んだのだろう。「幼きおそれ」の中身は、もとより知る由もない。とにかく、春の闇に身を横たえている安らぎのなかに、「ふと」幼き日のおそれが復(かえ)ってきたのである。仮に他人に話したとしても、一笑に付されてしまいそうな他愛ないおそれ……。だが、当人にとっては、なかなか眠れそうにないほどのおそれなのだ。どなたにも、多少とも覚えがあるのではなかろうか。でも、何故こういうことが起きるのだろう。心理学的解説は知らねども、人が安らぐ心持ちというものが、多くかつての幼児期の心に退行し重なり合うからだろうと、私には体験的に思われる。だから、白昼多忙時には片鱗も思い出すことのない思いが、安らぎを引き金にして、ごく自然によみがえってくることがある。幼き日のおそれが、当時と等価で戻ってきてしまうのだ。むろん私にも「幼きおそれ」はちゃんとあるけれど、やはりここに書けるようなことではない。両親や周囲の大人たちでも、絶対に助けてくれっこないような恐ろしいことが、身に迫ってくる。この怖さは、幼い心におぼろに芽生えはじめた自立心の所産だったのだろうなと、なるべくそう思うようにしてはいる。が、怖いものは怖い。『合本俳句歳時記』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)


February 0922002

 借財や干鱈を焙る日に三度

                           秋元不死男

語は「干鱈(ひだら)」で春。助宗鱈(スケソウダラ、スケトウダラとも)をひらき、薄く振り塩をして干したもの。軽く焙(あぶ)って裂き、醤油をつけて食べる。草間時彦に「塩の香のまず立つて干鱈あぶりをり」の句があって、いかにも美味そうだ。酒の肴にするのだろう。が、掲句はそんなに粋な情景ではない。酒肴というものは、だいたいが一寸ずつつまむから美味いのであって、掲句のように三度三度の食卓に乗せるとなると、誰だって辟易してしまうだろう。スケソウダラは、昔はマイワシと同じくらいに大量に獲れたので、安い魚の代表格だった。敗戦直後のニュース映画で、女性代議士が「毎週スケソウダラの配給ばかりでは、庶民はたまったものではない」と政府に詰め寄っているシーンがあったのを覚えている。一方のマイワシについては、穫れすぎて、北海道では道路の補修工事に使っていたほどだったという。そんな背景があっての掲句である。「借財」の重さを思いながら、三度三度干鱈を焙る男の姿は、やけに哀しく切ない。しかし、その干鱈さえ満足に口にできなかった人々もたくさんいた。我が家だけではなかった。『新歳時記・春』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


February 0822002

 恋猫の酒樽を飛び跳ねてゆく

                           高橋とも子

語は「恋猫(猫の恋)」で春。早春の発情期を迎えた猫の行動を指す。一読、ハードボイルド・タッチに共感した。恋猫の句は数あれど、どうもふにゃふにゃしたものが多いのが不満だ。「恋」という文字概念にとらわれて、人間のそれを連想し、どこかで比較しながら句作するので、ふにゃふにゃしてしまうのだ。その点、掲句は人の恋など知っちゃあいないというところから、はっしと猫の行動のみを捉えている。酒樽から酒樽へと、必死の爪を立てながら、ただ本能のおもむくままに「飛び跳ねて」ゆく。ただそれだけのことをずばりと表現しているのと同時に、この句は人(読者)に向けてのサービスを忘れていないところが素敵なのだ。サービスは「酒樽」にある。実景か否かの問題ではなく、ここに酒樽を配することで、読者は猫の行動にあっけにとられるのと同時に、ふっと人間臭さを酒樽を通した酒の匂いのように嗅がされてしまう。すなわち掲句は、凡百の恋猫句がはじめから人間臭さを取り込んでいるのに対して、読後にそれを感じさせようというわけだ。優れたハードボイルド小説の描写は、すべてこの企みのなかにあると言ってよい。掲句の情景の傍らに何の関係もなく立っているのが、コートの襟を立てた苦みばしったいい男、たとえば私立探偵フィリップ・マーローなのである。すなわち掲句は、この男が実は読者自身にたちまち重なってしまうという仕組みになっている。おわかりかな。『鱗』(2001)所収。(清水哲男)




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