私の周辺だけかしらん。こんなにも話題にならぬ五輪も珍しい。ケニアの選手でも応援すんべえ。




2002ソスN2ソスソス9ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 0922002

 借財や干鱈を焙る日に三度

                           秋元不死男

語は「干鱈(ひだら)」で春。助宗鱈(スケソウダラ、スケトウダラとも)をひらき、薄く振り塩をして干したもの。軽く焙(あぶ)って裂き、醤油をつけて食べる。草間時彦に「塩の香のまず立つて干鱈あぶりをり」の句があって、いかにも美味そうだ。酒の肴にするのだろう。が、掲句はそんなに粋な情景ではない。酒肴というものは、だいたいが一寸ずつつまむから美味いのであって、掲句のように三度三度の食卓に乗せるとなると、誰だって辟易してしまうだろう。スケソウダラは、昔はマイワシと同じくらいに大量に獲れたので、安い魚の代表格だった。敗戦直後のニュース映画で、女性代議士が「毎週スケソウダラの配給ばかりでは、庶民はたまったものではない」と政府に詰め寄っているシーンがあったのを覚えている。一方のマイワシについては、穫れすぎて、北海道では道路の補修工事に使っていたほどだったという。そんな背景があっての掲句である。「借財」の重さを思いながら、三度三度干鱈を焙る男の姿は、やけに哀しく切ない。しかし、その干鱈さえ満足に口にできなかった人々もたくさんいた。我が家だけではなかった。『新歳時記・春』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


February 0822002

 恋猫の酒樽を飛び跳ねてゆく

                           高橋とも子

語は「恋猫(猫の恋)」で春。早春の発情期を迎えた猫の行動を指す。一読、ハードボイルド・タッチに共感した。恋猫の句は数あれど、どうもふにゃふにゃしたものが多いのが不満だ。「恋」という文字概念にとらわれて、人間のそれを連想し、どこかで比較しながら句作するので、ふにゃふにゃしてしまうのだ。その点、掲句は人の恋など知っちゃあいないというところから、はっしと猫の行動のみを捉えている。酒樽から酒樽へと、必死の爪を立てながら、ただ本能のおもむくままに「飛び跳ねて」ゆく。ただそれだけのことをずばりと表現しているのと同時に、この句は人(読者)に向けてのサービスを忘れていないところが素敵なのだ。サービスは「酒樽」にある。実景か否かの問題ではなく、ここに酒樽を配することで、読者は猫の行動にあっけにとられるのと同時に、ふっと人間臭さを酒樽を通した酒の匂いのように嗅がされてしまう。すなわち掲句は、凡百の恋猫句がはじめから人間臭さを取り込んでいるのに対して、読後にそれを感じさせようというわけだ。優れたハードボイルド小説の描写は、すべてこの企みのなかにあると言ってよい。掲句の情景の傍らに何の関係もなく立っているのが、コートの襟を立てた苦みばしったいい男、たとえば私立探偵フィリップ・マーローなのである。すなわち掲句は、この男が実は読者自身にたちまち重なってしまうという仕組みになっている。おわかりかな。『鱗』(2001)所収。(清水哲男)


February 0722002

 冴え返る小便小僧の反り身かな

                           塩田俊子

語は「冴(さ)え返る」で春。暖かくなりかけて、また寒さがぶりかえしてくること。暖かい日の後だけに、余計に身の引き締まる感じがする。その寒さを誰にもわかってもらえるように表現するには、自分の体感以外の他の何かに取材しなければならない。暖かいときにはいかにも暖かそうな感じに写り、寒くなればまことに寒そうだという客観的な対象が必要だ。そうでないと、ただ「おお寒い」で終わってしまって、冴え返る感じは伝わらない。真冬と同じことになる。その意味から、掲句の作者が対象に「小便小僧」を選んだときに、すでに句はなったというべきか。あのおおらかな真っ裸の幼児の銅像は、たしかに寒暖の差によって表情が変わって見える。裸の姿が、見る者の肌と体感を刺戟してくるからだろう。しかも、小僧は「反り身」だ。人間「反り身」になるときには、たとえ威張る場合にせよ、当人の懸命さを露出する。だからなおさらに、句の小僧が冴え返った寒さに耐えていると写るのだ。以下余談。真夏だったが、一度だけブリュッセルで元祖・小便小僧を見たことがある。イラストレーターの友人と二人で、パリからアムステルダムを鈍行列車で目指す途中、気まぐれにブリュッセル駅で降りちゃった。で、見るなら「小便小僧だな」ということになったが、さて、西も東もわからない。ガイドブックなんて持ってない。おまけに言葉もしゃべれない。折よく通りかかった警官に、イラストレーターが得意の絵を描いて差し出したところ、彼はたちまち微笑した。「ついてこい」とばかりにウインクしたから、ついて行った。「ここだ」と彼が指さして再びウインクしたので、思わず英語で礼を述べた。そしたら、そこはトイレなのでした。……という「冴えない」実話は、もう何度か書いたことである。『句集すみだ川』(金曜句会合同句集・2002)所収。(清水哲男)




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