真珠湾攻撃の日。半世紀以上も経っていて、なお戦火が絶えない。人間は愚かと言うのは簡単だが…。




2001ソスN12ソスソス8ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 08122001

 ヒマラヤの麓に古りし暦かな

                           山本洋子

国に取材した句に、佳句は少ない。が、掲句はいただきだ。季語は「古りし暦(古暦)」で冬。使用中の今年の暦だが、来年用の暦が出回りだすと、古暦という感じになる。考えてみると、暦は目に見えない自然の時の流れを目に見えるようにした装置なわけで、実によくできている。装置の形態は種々に変化してきたが、人類最古の文化的所産の一つと言ってよい。暦の必要は、自然現象に関心を抱かざるを得ない生活から発しているはずだ。この国の農事暦などを見ると、そのことが実感される。そういうことからすると、野暮ったい暦のほうが本来の暦なのであり、昨今私たちの部屋にあるような洗練されたデザインのものは、自然現象に関心の希薄な人々のものでしかない。洗練は、自然から遠く離れたところで成立する文化なのだ。いまの「ヒマラヤの麓(ふもと)」では、どんな暦を使っているのだろうか。行ったことが無いのでわからないが、この暦は私たちのものよりも、自然を強く意識して作られているはずなので、見た目には野暮ったいかもしれない。しかしそれがどんな暦にせよ、「古りし暦」が季語として濃密に感じられるのは、現代の日本でよりも、こういう風土のところでだろう。私たちよりもずっと「暦とともにある」人々の生活が、あれこれと想像されて、とても味のある句だと思った。「俳句年鑑」(2002年版・角川書店)所載。(清水哲男)


December 07122001

 実のあるカツサンドなり冬の雲

                           小川軽舟

語は「冬の雲」。季節によって雲の表情は変化するので、それぞれの季節を冠して季語として独立している。「冬の雲」は暗く陰鬱なものと、晴れた日の美しく晴朗なものとがある。掲句の雲はどちらだろうかと一瞬戸惑って、前者だろうと判断した。すなわち「実(じつ)のあるカツサンド」のように、ずっしりとした分厚い雲だ。たしかに「カツサンド」には、実のあるものとないものとがある。いくらカツの量が多くても、パンとしっくり合っていなくて、お互いにソッポを向いているようなのがある。食べるときに、両者がとにかく意地悪く分離してしまい、始末におえない。そこへいくと、たとえば私の好きな「井泉」のそれは、まことに両者の肌合いがしっくりいっており、特別にカツが大きいわけじゃないのに、作者言うところの「実」があるとしか言いようがないのだ。この「実のある」という措辞を「カツサンド」に結びつけたセンスの良さ。加えて、食べた後(最中でもよい)の満足感を「冬の雲」に反射させた感度の良さに感心した。「実のあるカツサンド」を食べたからこその「冬の雲」は、単に陰鬱とは写らずに、むしろ陰鬱の充実した部分だけが拡大されて写る。そうした「冬の雲」の印象は誰にでもあるはずなのに、それを作者がはじめて言った。ささやかであれ、一般的に満ち足りた心は、直後(最中)の表現などはしない、いや、できない。そこのところを詠んだ作者の粘り腰に、惚れた。俳誌「鷹」(2001年4月号)所載。(清水哲男)


December 06122001

 息白き子のひらめかす叡智かな

                           阿波野青畝

語は「息白し」で冬。我が子ではなく、よその家の子だと思う。寒い朝。出かける道すがら、たまたま近所の知っている子に出会って連れ立って歩いている。子供とは世間話はできないから、学校や勉強のことなどを軽い気持ちで聞いてみたのかもしれない。話題がなんであれ、話しているうちに、作者は質問に一所懸命に答える子供の「叡智(えいち)」に気づかされた。単に才気煥発とか小利口というのではなく、日頃から真剣に物事を考えているところからしか出てこない話ぶり。それが子供の白い息に添ってひらめきながら、作者の胸を強く深く打ってきたのである。当の子供にしてみれば、当たり前の話をしただけなのだろう。が、作者には「これぞ本物の叡智」という感慨が生まれてしまった。この子のように、俺は物事を正面から引き受けて物を考えたことがあったろうか、と。凄いヤツだなあと、顔には出さねど舌を巻いている。「叡智」とは知識ではない。だから、ちっぽけな子供にだって「叡智」はそなわる。知識の徒が逆立ちしたってつかめない考えを、自力でつかんでいる子供もいる。そんな子供に自然に畏敬の念を覚えた作者もまた「叡智」の人なのだと、私は感動した。寒い朝でも、この交流はとても暖かい。『合本俳句歳時記』(1973・角川書店)所載。(清水哲男)




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