♪チャンチャンチャンチャン砂ボコリ、斬ッタラ血ガ出ルターラタラ。亡き祖父の教えたまいし歌。




2001ソスN10ソスソス27ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 27102001

 うそ寒き顔瞶め笑み浮かばしむ

                           岸田稚魚

語は「うそ寒(やや寒)」で秋。「嘘寒」ではなく「うすら寒い」から来た言葉だろう。さて、作者が「瞶(みつ)め」ることで「笑み浮かばし」めた相手は誰だろう。書いてないのでわからないけれど、たぶん妻ではなかろうか。「うそ寒き顔」とは寒そうな顔というよりも、浮かない顔に近いような気がする。そんな表情に気がついた作者が、傍らから故意にじいっと「瞶め」やっているうちに、ようやく視線を感じた相手が、ちらりと微笑を返してきたのだった。ただ、現象的にはそれだけのことでしかない。考えてみれば、人と人との間には、このような交感がいつも行われている。とりたてて当人同士の記憶にとどまることもなく、すぐにお互いに忘れてしまうような交感だ。しかし、このような喜怒哀楽の次元にも達しないような淡い関係が頻繁にあるからこそ、人はいちいち自覚はしないのだが、なんとか生きていけるのだろう。他人の「おかげ」というときに、基本は日頃のこの種の淡い交流にこそ、実は盤石の基盤があると言っても過言ではないと思う。そして私などが深く感じ入るのは、この種の何でもない交感をそのまま記述して、何かを感じさせることのできる俳句という詩型のユニークさだ。自由詩のかなわないところが、確かにこのあたりに存在する。『雁渡し』(1951)所収。(清水哲男)


October 26102001

 バス停に小座布団あり神の留守

                           吉岡桂六

語は「神の留守」から「神無月」。陰暦十月の異称で、冬。したがって、まだちょっと早い。八百万の神々が出雲大社に集まるため、諸国の神が留守になる月。これが定説のようだが、雷の無い月だから、とも。句のバス停は作者がいつも利用するそれではなくて、旅先だろうか、とにかくはじめてのバス停だ。バス停のベンチに「小座布団」が置いてあること自体が珍しいので、「ほお」と思った。他にバスを待つ人はおらず、作者一人だ。座布団の色までは書いてないけれど、私の好みのイメージとしては、赤色がふさわしい。ちっちゃくて真っ赤な座布団。なんだか小さな神様のために用意されているようだと作者は感じ、でも、いまは出雲にお出かけだからお使いにはならないのだと微笑している。「神無月」の句には意味あり気な作品が多いなかで、即物的にからっと仕上げた腕前に魅かれた。最近の我が町・三鷹市やお隣の武蔵野市では、小回りの利くカラフルで小さなバスが走り回っている。三鷹駅からジブリ美術館へ行くバスも、黄色くてちっちゃな車体だ。こんなバスにこそ「小座布団」が似合いそうだが、ほとんどの停留所にはベンチも置かれていない。『遠眼鏡』(2001)所収。(清水哲男)


October 25102001

 句会果て井川博年そぞろ寒

                           八木忠栄

語は「そぞろ寒(さむ)」で秋。「冷やか」よりもやや強く感じる寒さ。素材的に身内の句の紹介になるが、「句会」とは、詩の書き手がほとんどの小沢信男さんをカシラとする「余白句会」で、年に三度か四度集まっては、故・辻征夫の言葉を借りれば「真剣に遊んで」いる。井川博年は創立メンバーの一人であり、作者の八木忠栄は私同様に、途中から補強(!?)された一人だ。この日の井川君は、調子が悪かった。高校時代に松江図書館で、誰も借り手のない虚子の全集をみんな読んじゃったという人だけに、逆に俳句を知りすぎているが故の弱さの出ることがある。そういう日だった。井川君の風貌を知っている読者であれば、この「そぞろ寒」には一も二もなくうなずけるだろう。山陰の男に特有のそぞろ寒い感じを、確かに井川君は持っている。彼を直接知らない多くの読者には、ご自分の友人知己の誰かれを思い起こしてほしい。それぞれの人には、それぞれに似合う季節があると思いませんか。この句は身内を詠んではいても、暗にそういうことを指さしている。固有名詞を出しながらも、普遍性を保っている。べつに、井川博年を具体的に知らなくたってよいのです。ちなみに作者は長岡の出身だからか、冬の似合う人であり、句集でも佳句は晩秋から冬に集中している。ならば、読者諸兄姉よ、あなた自身に似合う季節は「いつ」だとお思いでしょうか。自分のことはわからない。むろん、私もわからない。というようなことが、掲句からいちばんわかったのは、実は詠まれている井川博年その人であることが、よくわかる一句だと思いました。ね、井川君、そうじゃろうが……。『雪やまず』(2001・書肆山田)所収。(清水哲男)




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