カウンターの数字が大台に。一日で数カウントの初期の頃を思い出します。みなさん、ありがとう。




2001ソスN10ソスソス13ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 13102001

 はぜ釣るや水村山廓酒旗風

                           服部嵐雪

語は「はぜ(鯊)釣」で秋。私には体験がないのでわからないのだが、江戸期、嵐雪の時代の釣り方が『和漢三才図会』に出ている。「綸(つりいと)の端、鈎(つりばり)を去ること二三寸許の処に、鉛の錘を着、鈎を地に附しむ。微動の響を俟(まっ)て竿を揚ぐ。秋月、貴賎以て遊興の一ツとす」。餌には「小エビ」を使った。さて、嵐雪も秋晴れの一日を入り江の村に「遊興」に出かけた。山に囲まれた一郭では、居酒屋の旗が風にはためいている。気持ちの良い浮き浮きした気分が、伝わってくる。ただ、字面を眺めていると、どことなく釣り場の風景が日本的ではないことに気がつく。それもそのはずで、句の「水村山廓酒旗風(すいそんさんかくしゅきのかぜ)」は、晩唐の詩人・杜牧(とぼく)の五言絶句の一節をそっくりそのままいただいたものだからだ。和歌の本歌取りの手法である。だとすれば、嵐雪はこれを机上で作ったのかという疑問もわいてくるけれど、そうではあるまい。やはり、鯊釣りの現場での発想だ。人間、心持ちがよくなると、見立てもまたどんどん気分の良い方にふくらんでいく。いまの自分は杜牧のような大詩人なのであり、杜牧の詩と同じ景色の中にいるのだと……。卑近な例では、日本のどこかの路を歩いていて、なんだか有名な外国の通りを歩いているような気持ちになったりするが、そんな見立てにも通じている。鯊の天麩羅が食べたくなった。(清水哲男)


October 12102001

 はじめから傾ぐ藁塚にて候

                           伊藤白潮

語は「藁塚(わらづか)」で秋。新藁を保存するために、刈り田のあとに円筒形に積み上げた塚だ。「にお」と呼ぶ地方が多いらしいが、私の田舎の山口では「としゃく」と言っていた。今も「としゃく」だ。漢字では、どう書くんだろうか。棒を中心に立てて積んでいたが、棒を使わない積み方もあるのだという。とにかく上手に積み上げないと、「藁塚」は日が経つに連れてだんだんと傾いてくる。見た目にも、ぶざまになる。掲句は、そんな下手な積み上げ方をされた「藁塚」が、作ったご主人に代わって言いわけをしているのだ。「はじめから傾(かし)ぐ」ようにと、ご主人は意図的に積み上げられたのですから、笑うのは筋違いですよ。私は平気でござんすからね、以上っ。と、かたわらを通る人みんなに、頼まれもしないのに説明しているのである。そこが可笑しい。当たり前の話だが、各種の農作業の工程に巧拙はつきもので、それぞれに苦手な作業も出てくる。百姓だからといって、百姓仕事のすべてを完璧にこなせるわけじゃない。「藁塚」などは長く人目につくものなので、苦手な人には苦痛だろう。きっと誰かが笑っているという強迫観念に苛まれる人も、いるはずだ。だから作者はそこらへんの事情を慮って、べつに下手だっていいじゃないかと、この句をわざわざ書いたのである。心根の優しい俳人だなと、元農家の子供としては思ったことである。『新日本大歳時記・秋』(1999)所載。(清水哲男)


October 11102001

 秋の蝶小さき門に就職する

                           宮崎重作

あ、よかったねエ。たとえ「小さき門」の会社だって、とにかく一息はつけるだろうから……。門のある会社といえば、おおかたは製造業だ。じりじりと失業者が増えつつある現在の時点で読むと、他人事ながら素直に祝福したい気持ちになる。ところが、掲句は戦後六年目に詠まれている。1951年(昭和二十六年)。当時の失業率はわからないが、現在の比ではないだろう。もっと高率だったはずだ。だから作者は、たとえ意にそまぬ会社へでも就職できたことを喜んでもよいはずが、その気配もない。「秋の蝶」は力なく弱々しく飛ぶしかなく、みずからも「小さき門」へと力なく弱々しく入っていく。落胆している。終身雇用制が常識だったので、こんなちっぽけな会社に生涯勤めるのかと思うと、気落ちせざるをえなかったのだろうか。俳句はしばしば世相や時の人情を写すが、短くしか語られないので、かえってよくわからないケースが多い。今この句を読んで推測するかぎりでは、少なくとも作者の就職は身近な人からも祝福されていなかったようである。宮崎重作については何も知らないが、気になって作品を追いかけてみた。と、およそ四半世紀後の句に「伊勢の海老阿吽阿吽と喰いはじめ」という句を、ぽつんと見つけることができた。「伊勢海老」は新年の季語だ。なんとなく、ホッとした。『昭和俳句選集』(1977)所載。(清水哲男)




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