五周年に際し、多くの方からお言葉をいただきました。ご返事はかないませんが、お許しください。




2001ソスN7ソスソス2ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 0272001

 半夏生子の用ゆえにみだしなみ

                           神村睦代

至から数えて十一日目の今日が「半夏生(はんげしょう)」だ。と言われたって、俳人以外は、もはや誰も知りはしないだろう。知らなくても何の差し支えがあるわけでもないけれど、暁に天より毒気降る日だそうだから、好奇心がわいた。さっそく、事典を引く。「太陽の位置が黄経100度にあるときと定義されているが、暦のうえの入梅は80度、夏至は90度であるから、半夏生は夏至を挟んで、入梅と対称の位置にあるときにあたり、陽暦では7月2日ごろとなる。半夏はドクダミ科の多年草で、別名カタシログサ。水辺や低湿地に生え、一種の臭気をもつ。その半夏が生えるころという意味である。昔の農事暦では、このころまでに田植を終えるとされていた。迷信的暦注としては、この日毒気が降るので、『前夜から井戸や泉に蓋(ふた)をすべし』といわれた。〈根本順吉〉」。青字で示した部分が、農事での実用的な眼目だろう。今日は、田植のギリギリの締切日だったのだ。もっとも「半夏」は「カラスビシャク(烏柄杓)」の漢名とするほうが正しい。「カタシログサ(片白草)」の場合は、「半夏」と区別して「半夏生(草)」という名前だ。ところで掲句の「半夏生」は、本意に添った用法ではない。蒸し暑い時期という雰囲気的な使い方だと思うが、ひょっとすると「半化粧」に掛けたのかな。子供のための用事とは、PTAの会合あたりか。担任の教師や他の母親にも、だらしない印象は与えられない。迷惑するのは、子供だと思うからこその「みだしなみ」である。しかしこの有難き母心にも、ときに謀反を覚える子供心を、世の母者びとらは知り給うや。『新日本大歳時記・夏』(2000・講談社)所載。(清水哲男)


July 0172001

 七月や既にたのしき草の丈

                           日野草城

半ばに梅雨が明けると、いよいよ夏の盛りが訪れる。下旬には、子供らの夏休みもはじまる。暑さも暑しの季節だが、自然的にも人事的にも他の月とは違い、「七月」は活気溢れるイメージに満ちた月だ。掲句は「既にたのしき」とあるから、まだ盛夏ではなく、新しく今月を迎えたばかりの感慨である。ぐんぐんと伸びつづける「草の丈」に、夏の真っ盛りも近いと感じ、しかも技巧的にごちゃごちゃと細工したりせずに、素朴に「たのしき」と言い止めたところが素晴らしい。この句を読んだ人はみな、庭などの「草の丈」をあらためて見てみたくなるだろう。晩年に近い長期療養中の作句であるが、作者自身の生命力のありようも伝わってくる。まだ若くて元気なころの句に「七月のつめたきスウプ澄み透り」があるけれど、モダンで美々しくはあっても、むしろ生命力の希薄さを覚えさせられる。「七月」という言葉の必然性も、体感的には希薄だ。すなわち、健康な人はついに健康を対象化できないということか。その必要もないからと言えばそれまでだし、たぶんそういうことなのだろうが……。『人生の午後』(1953)所収。(清水哲男)


June 3062001

 小数点以下省略のかきつばた

                           永末恵子

っきりと咲いた「かきつばた(燕子花・杜若)」の姿を、これまたすっきりと「小数点以下省略」と捉えた句。花の美しさよりも、剣状の葉とともにある形状のくきやかさに注目している。よく混同される「あやめ」は、花に網状の文様があるので、作者のウイットを援用すれば、小数点以下三桁か四桁くらいの感じがする。小数点といえば、学校で教える円周率(Π)の値が「小数点以下省略」されることになったという。無茶な話だ。亡国の数学教育だ。「省略」したのは、計算がしやすいからだろう。たしかに従来の「3.14」だって、アバウトと言えばアバウトではある。で、どうせアバウトなのだから、計算が簡便な「3」にしちまえという理屈は、しかし教育的に筋が通らない。百歩ゆずっても、単なる「3」ではなく「3.0」と小数点の存在を明確にしておかないと、円周率の本義を理解できなくなるではないか。この事態を皮肉った小沢信男の文章がある(「るしおる」43号・2001)。「円に内接する正六角形の6辺の和は、半径×6=直径×3=円周。すなわち真ん丸であることは正六角形にほかならなくなってしまった。(中略)かねて自主規制のつよい国民性なもので、丸顔のやつなどはだんだんとがった顔つきになる。ついにある日、日の丸の旗が、日の六画旗に改められた。……」。小沢さんによれば、横綱の武蔵丸も「武蔵六角」になり、駅前のマルイも「ロッカクイ」となる羽目に。『留守』(1994)所収。(清水哲男)

[付言]私の不勉強で、上の記述に不適当な部分がありました。読者よりご教示いただいた『小学校学習指導要領、第2章「各教科」、第3節「算数」の「第5学年」』には、「円周率としては3.14を用いるが,目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する」と書かれています。ただ、目的がどうであれ、私は単なる「3」には反対です。




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