ついに、原稿一本を来年送り。今日で仕事納めという方が大半でしょう。一年間、ご苦労様でした。




2000ソスN12ソスソス28ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 28122000

 書をはこびきて四壁なり煤ごもり

                           皆吉爽雨

払い(すすはらい)の際に邪魔にならないよう、年寄りや病人が一室に籠ることを「煤ごもり」とか「煤逃げ」などと言う。足手まといになる子供らにも言うし、手伝わずに威張って自室に籠っている一家の主人にも言ったようだ。ただし、煤ごもりに用いられる部屋には、他の部屋の家具類が一時置き場として運び込まれるから、ゆっくりできる気分にはなれない。まさに「四壁」状態となる。つまり、普通の状態だと、部屋にはドアや襖などの出入り口があるので「三壁」。揚句の場合には、書物が出入り口にまでうずたかく積まれてしまっているので、どう見ても「四壁」状態とあいなったわけだ。出るに出られない。これでは籠っているのだか、押し込まれているのだかわからんなと、たぶん作者は苦笑している。ある程度住宅が広くないと、こういうことはできない。だから私には経験はないのだが、「煤ごもり」ではなく「煤逃げ」という言葉を拡大解釈すれば、ないこともない。何度か大掃除の現場から逃走して、映画館に籠ったことがあった。むろん親には別の理由をつけての話で、そんなときの映画には、さすがに身が入らなかった。そうした後ろめたい理由さえなければ、押し詰まってからの映画館は快適だ。大晦日は、特にお薦め。客が少ないからである。一度だけ、たった一人だったこともある。たしか、東京駅の横っちょにあったちっぽけな小屋(業界用語なり)だった。そうなると、逆にとても落ち着いては見ていられない気分だったけれど(笑)。『新歳時記・冬』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


December 27122000

 よい夢のさめても嬉しもちの音

                           五 筑

朝、まだ暗いうちに、近隣で餅を搗く音に目が覚めた。せっかく「よい夢」を見ていたのに、破られてしまった。しかし、破られても「もちの音」を聞くほうが嬉しい気分である。さあ、いよいよ正月だ。子供のころは農村に暮らしたので、私にも同じ体験がある。この時季になると、毎朝、どこからか「もちの音」が聞こえてくるのだった。正月を待つ心は、子供のほうが熱い。寝床のなかで聞いていると、なんだかとてもドキドキした。思い返すと、旧家ほど早めに搗いていたようだ。我が家のような新参の家や小さな家が、最初に搗くことはなかった。搗く順番に、何か暗黙の取り決めがあったような気がする。したがって、我が家では大晦日近くに搗いていた記憶がある。二十九日だけは「苦餅」となるので、搗くのは避けた。作者は江戸期の町場の人だろうから、搗いているのは商売人かもしれない。「引摺り餅」と言って、数人で臼や杵などの餅搗き道具一切を持ち、各戸を搗いてまわった。落語に「しりもち」という演目があり、貧乏で「引摺り餅」を頼めない男が、それでは世間体が悪いというので、大晦日の暗いうちにに一計を案じる。近所に搗く音さえ聞こえればいいんだろと、さも「引摺り餅」の男たちがやってきているかのように、数人の声色を使い分け、大声で餅搗きシーンを自演しはじめる。で、「もちの音」を出すために、女房の丸出しの尻を叩いた。だから「しりもち」。関西ネタだというが、哀しくも滑稽な噺ではある。『新日本大歳時記・冬』(1999・講談社)所載。(清水哲男)


December 26122000

 鱒鮓や寒さの戻る星の色

                           古館曹人

鮓(ますずし)は富山の名産と聞くが、本場ものは食べたことがない。いわゆる押し寿司だろうか。冬の鮓の冷たい感触は、冷たさゆえに食欲をそそる。傍らに熱いお茶を置き、冷たさも味のうちとして賞味する。揚句では、さらにサーモン・ピンクの鱒の色が、戻ってきた寒さのなかに明滅する星の色にしみじみと通いあっており、絶品だ。ふと、通夜の情景かもしれないと思った。亡き人を偲ぶとき、私たちは吸い込まれるように空を見上げる。死者が召されるという暗黒の「天」には、星がまたたいている。その星のまたたきが、生き残った者たちの慰めとなる。まったく見当外れの読みかもしれないが、いまの私には、むしろこう読んだほうが、しっくりくる。今夜、詩人仲間の加藤温子さんのお通夜(於・カトリック吉祥寺教会)がとりおこなわれる。明日の葬儀ミサには行けないので、今夜でお別れだ。二十年に近いおつきあいだった。きっと星はまたたいてくれ、私はきっと見上げるだろう。温子さん、いつものジーパン姿で会いに行くからね。『樹下石上』所収。(清水哲男)




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