今月の絵看板は、モンドリアン風味の昭和モダンアート気取り。たまに変化するでしょう。お楽しみに。




2000ソスN12ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 01122000

 盛り上がり珠となる血や十二月

                           渡辺鮎太

て、十二月。諸事雑事に追われて、ともすれば自分を見失いがちな月。何年前だったか。もうどこの雑誌に書いたのかも忘れてしまったが、ずばり「十二月」というタイトルの詩を書いたことがある。「大掃除をしなければならぬ」という具合に、全行「……しなければならぬ」だけでまとめた。書いているうちに、次から次へと「……しなければならぬ」ことが出てきて、驚きかつ呆れたことを覚えている。安住敦に「一弟子の離婚の沙汰も十二月」があり、「……しなければならぬ」のなかには、他人事もからんできたりする。掲句はそんな当月の日常のなかで、不意に我にかえった一刻をとらえていて見事だ。忙しくしている最中に、うかつにも何か鋭いもので、手かどこかを突いてしまったのだろう。「いけないっ」と見ると、小さな傷口から血が出てきた。見るうちに、血が「盛り上が」ってくる。その盛り上がった様子を、美しい「珠」のようだととらえたとき、作者は我にかえったのだ。かまけていた眼前の雑事などは一瞬忘れてしまい、自分には生身の身体があることを認識したのである。忙中に美しき血珠あり。小さな血珠に、大きな十二月を反射させて絶妙だ。よし。この十二月は、この句を思い出しながら乗りきることにしよう。「俳句研究」(2000年12月号)所載。(清水哲男)


November 30112000

 薪をわるいもうと一人冬籠

                           正岡子規

いに倒れた子規を看病したのは、母親と妹の律(りつ)である。元来が男の仕事である薪割りも、病臥している子規にはできない。寒い戸外で、「いもうと一人」が割っている「音」が切ない感じで聞こえてくる。病床は暖かく「冬籠(ふゆごもり)」そのものだ。申し訳ないという思いと同時に、けなげな「いもうと」への情愛の念が滲み出た一句だ。平仮名の「いもうと」が、句にやわらかい効果を与えていて素晴らしい。ところで、この句だけを読むと、子規は「いもうと」に対して常にやさしい態度で接していたと思えるが、実はそうでもなかった。『病臥漫録』に、次の件りがある。「律は強情なり 人間に向って冷淡なり 特に男に向って shy なり 彼は到底配偶者として世に立つ能(あた)はざるなり しかもその事が原因となりて彼は終(つい)に兄の看病人となりをはれり (中略) 彼が再び嫁して再び戻りその配偶者として世に立つこと能はざるを証明せしは暗に兄の看病人となるべき運命を持ちしためにやあらん」。このとき、子規は三十五歳、律は三十二歳だった。いかな寝返りも打てぬ病人とはいえ、あまりにも手前勝手な暴言だと憤激するムキもあるだろう。しかしこの文章を読み、また掲句に戻ると、子規の「いもうと」という肉親に対する思いは、どちらも本当だったのだという気がする。すなわち肉親に対する情愛、愛憎の念は、誰にでもこのように揺れてあるのではないだろうか、と。(清水哲男)


November 29112000

 短日や書体父より祖父に似る

                           廣瀬直人

ッとした。こういうことは、思ってもみなかった。たしかに「書体」だって、遺伝するだろう。身体の仕組みが似ているのだから、ちょっとした仕草や動作にも似ているところがあるのと同じことで、「書体」も似てくるはずである。そういうことを、掲句に触れた人はみな、ひるがえって我が身に引きつけて考える。その意味では、この句はすべての読者への挨拶のように機能している。私の場合、二十代くらいまでは父の書体に似ていた。良く言えば几帳面な文字だが、どこか神経質な感じのする「書体」だった。さっき大学時代のノートの小さな文字列を見てみて、まぎれもない父似だと感じた。ところが、三十代に入って文筆を業とするようになってからは、「書体」が激変することになる。貧乏ゆえ原稿用紙を買うのが惜しかったので、最初に関わった「徳間書店」で大量にもらった升目の大きい用紙を使いつづけたせいだと思う。大きな升目に小さな文字ではいかにも貧相なので、升目に合わせて大きく書くようになった。以来の私の文字は、母方の祖父の「書体」に似ているような気がする。彼の文字は、葉書だと五行ほどで一杯になるくらい大きかった。祖父の体格は「書体」にふさわしく堂々としていたが、私は華奢だ。しばしば、編集の人から「身体に似合わない字を書きますね」と言われた。「短日(たんじつ)」は「秋思」の延長のようにして、人にいろいろなことを思わせる。『日の鳥』(1975)所収。(清水哲男)




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