「島成郎君とのお別れ会」。十一月十一日(土)午後一時-三時。青山葬儀所。……との連絡が入った。




2000ソスN10ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 29102000

 行先ちがふ弁当四つ秋日和

                           松永典子

日あたり、こんな事情の家庭がありそうだ。絶好の行楽日和。みんな出かけるのだが、それぞれに行き先が違う。同じ中身の弁当を、それぞれが同じ時間に別々の場所で食べることになる。蓋を取ったとき、きっとそれぞれが家族の誰かれのことをチラリと頭に描くだろう。そんな思いで、弁当を詰めていく。大袈裟に言えば、本日の家族の絆は、この弁当によって結ばれるのだ。主婦であり母親ならではの発想である。変哲もない句のようだが、出かける四人の姿までが彷彿としてきてほほ笑ましい。こういうときには、たいてい誰かが忘れ物をしたりするので、主婦たる者は、弁当を詰め終えたら、そちらのほうにも気を配らなければならない。「ハンカチ持った?」「バス代は?」などなど。家族の盛りとは、こういう事態に象徴されるのだろう。みなさん、元気に行ってらっしゃい。また、こういう句もある。「子の布団愛かた寄らぬやうに干し」。よくわかります。一応ざっと干してから、均等に日が当たるようにと、ちょちょっと位置を微妙に修正するのだ。今日あたり、こういう母親もたくさんいるだろう。ちなみに「布団」は冬の季語。「とても好調だ、典子は」と、これは句集に添えられた坪内稔典さんの言葉だ。『木の言葉から』(1999)所収。(清水哲男)


October 28102000

 栗むきぬ子亡く子遠く夫とふたり

                           及川 貞

ったの一行で、家族の歴史を語っている。一人の子は亡くなり、一人の子は家を出て遠くに暮らしている。残された夫(つま)との二人暮らしの日々は、何事もなく静かに過ぎてゆく。「栗をむく」といっても、昔とは違い、ほんの少しで足りる。子供らがいてにぎやかだった頃には、たくさんむいた。その様子を、幼い子供らは目を輝かせて見つめていたものだ。そういうことが思い出され、あの頃が家族の盛りの季節であり、自分にも華の季節だったと、一抹の哀感が胸をよぎるのである。生栗の皮は、なかなかにむきにくい。とくに渋皮をきれいにむくのは、栗の状態にもよるけれど、そう簡単ではない。包丁で無造作に分厚くむく人もいるけれど、実がそがれてしまうので、私などにはもったいなくて、とても真似できない。子供時代には、爪だけでていねいに渋皮をむいた。外皮には、歯を使った。いまでは、とてもできない芸当だった。チャレンジする気にもならないが、おそらくはもう歯など立たないだろう。加藤楸邨に「我を信ぜず生栗を歯でむきながら」の一句あり。そうして皮がむけたら、栗ご飯にする。米は、もちろん新米だ。美味いのなんのって、頬っぺたが落ちそう……。あの当時の「銀シャリ」は美味かった。「コシヒカリ」なんてなかった頃。いまは、私の田舎でも「コシヒカリ」ばっかりだと聞いた。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


October 27102000

 帽子掛けに帽子が見えず秋の暮

                           杉本 寛

の男は、よく帽子を被った。戦前の駅や街などの人出を撮った写真を見ると、たいていの男が帽子を被っている。会社員はもちろん、小説家や詩人もほとんどがソフト帽を被っていたようだ。うろ覚えだが、白秋に「青いソフトに降る雪は、過ぎしその手か囁きか、酒か薄荷かいつの間に、消ゆる涙か懐しや」の小唄がある。おしゃれの必需品だったわけだ。その気風は戦後しばらくまで引き継がれていて、二十代の叔父が、少し斜めに被っていたダンディな姿を思い出す。父は、いまだに帽子派だ。だから、家の玄関だとか会社の応接室などには、必ず帽子掛けが置いてあった。それがいつしか流行も廃れ、「帽子掛けに帽子が見えず」の状態となる。作者は帽子好きのようで、この状態に寂しさを覚えている。「秋の暮」のように物悲しい。と、これは私の勝手な解釈で、自註には「玄関には常に帽子がいろいろと。来客、句会の時は一掃」とある。つまり掲句は、来客があるので一掃した状態を詠んでいるのだ。そこまでは句から読み取れないので、私の解釈でもよいだろう。いまや帽子掛けは無用の長物と成り果て、その気になって探してみても、なかなか見ることができない。若い人に見せても、そもそも何に使う道具なのかがわからないかもしれない。しかし、どういうわけか私の今の職場には帽子掛けが置いてあり、誰も帽子など被って来ないから、もっぱら傘掛け専用で使われている。『杉本寛集』(1988)所収。(清水哲男)




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