小学館『日本国語大辞典』改訂版。実物大組見本を見たら文字が小さくて読めない。買わずにすんだ。




2000ソスN10ソスソス9ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 09102000

 体育の日を書き物で過ごしけり

                           森田公司

育と「書き物」などの机上の所業とは、対立的な振る舞いとして捉えられてきた。身体を使うか、使わないか。対立軸は、そこにある。考えてみれば「文武両道」なる精神も、そこに発している。「文弱」なども同様だ。だから、掲句も意味を持つ。みんなが身体を動かすことに自覚的な一日を、我一人は文章を書いて過ごした。よんどころない原稿の締切に追われたせいなのか、あるいは誘われた市民運動会なんぞに参加してやるものかという反骨心(ひねくれ根性)からか、それは知らない。いずれにしても、句は常識としての対立概念をベースに成立している。しかし、それこそひねくれ根性のせいか、私はこの常識を好きになれない。体育と「書き物」などの「知育」とは対立してはいない。むしろ、平行している。共存している。極められるかどうかは別にして、人は誰でも本質的に「文武両道」であらざるを得ぬ生き物だろう。それをことさらに「体育」と言い「知育」と言ってきたのは、何のためだろうか。決まってるジャン、国家のためだ。富国強兵、お国のためである。「体育の日」は、東京五輪(1964)の記念日だ。お国のために開かれたオリンピックを、永久に思い出させようとする企みに発した旗日である。ヒットラーの愛人が作ったベルリン五輪の記録映画『民族の祭典』は、その素晴らしい映像を梃子に、この二項対立概念を「民族」に説得する方便としての映画でもあった。そして、戦争がはじまる。はじめは「体育」の人が死んでいき、結局は「知育」の人も後を追わされた……。「旗日とやわが家に旗も父もなし」(池田澄子)。『新日本大歳時記・秋』(1999・講談社)所載。(清水哲男)


October 08102000

 はたおりの子を負ひたればあはれなり

                           山口青邨

ょっと待って……。ここから先を読む前に、もう一度掲句に戻っていただきたい。句に戻って、句に詠まれた情景をイメージしてから、ここに戻ってきてください。さて、どうですか。イメージは浮かびましたか。そのイメージは、とても大切です。赤ん坊をおんぶして、機織(はたおり)の仕事に励んでいる女性の姿が浮かんだと思います。子育てをしながら、なおかつ賃仕事を強いられる貧しい女性の姿でしょうね。だから、作者は「あはれ」だと……。しかし、賢明な諸兄姉が既にお気づきのように、だとすると、この句には季語が無い。有季定型俳人である青邨が、無季句を作るはずはない。はてな?? ところが、季語はあるのです。季語は「はたおり」。「ばった」のことです。「ばった」の異名は「機織虫」。仕草からの連想でしょう。「はたおり」は「きりぎりす」の異名でもあるけれど、この場合は「おんぶばった」を指しています。第一「きりぎりす」は遊び人ですしね(アリとキリギリス)。この「おんぶばった」の習性に、読者が最初にイメージした女性の姿を重ねての「あはれ」なのです。持って回った書き方をしてしまいましたが、作者もおそらくは、こう読んでもらいたかったのではないでしょうか。お口直しに(笑)、真っ当な「きちきちばった」の「あはれ」を、どうぞ。「きちきちといはねばとべぬあはれなり」(富安風生)。『合本俳句歳時記・新版』(1974)所載。(清水哲男)


October 07102000

 何もないとこでつまずく猫じゃらし

                           中原幸子

ういうことが、私にもたまに起きる。どうしてなのか。甲子園で行進する球児のように、極度の緊張感があるのならばわかる。足並みを揃えなければと思うだけで、歩き方がわからなくなるのだ。だから、チームによっては極度に膝を高く上げて歩いたりする。普段と違う歩き方を意識することで、これは存外うまくいくものだ。しかし、一人でなんとなく歩いていてつまずくとは、どういう身体的な制約から来るのだろうか。やはり、突然歩き方がわからなくなったという意識はある。そう意識すると、今度は意識しているから、余計につまずくことになる。道端で「猫じゃらし」が風にゆれている。くくっと笑っているのだ。コンチクショウめが……。そこで、またつまずく。「猫じゃらし」の名前は一般的だが、昔は仔犬の尻尾やに似ていることから、どちらかというと「狗尾草(えのころぐさ)」のほうがポピュラーだったようだ。たいていの歳時記の主項目には「狗尾草」とある。「良い秋や犬ころ草もころころと」(一茶)。この句は、仔犬の可愛らしさに擬している。『遠くの山』(2000)所収。(清水哲男)




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