ひさしぶりの方もいらっしゃるでしょう。故郷は如何でしたか。職場で、ひょいと方言が飛び出す日。




2000ソスN8ソスソス21ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 2182000

 子にうすれゆく方言よ蕎麦の花

                           神原教江

麦(そば)の花が咲きはじめると、そろそろ夏休みもおしまいだ。子供のころには、夏休みが退屈だったくせに、あの白い花が風に揺れている様子に寂しい気持ちもしたものだ。掲句の作者は、もっと寂しい。帰省中の子供が、間もなく都会に去っていくのである。大学生だろうか。休みに帰って来るたびに、言葉遣いが「都会モン」らしくなってくる。方言を毛嫌いするかのようにも、うかがえる。方言には発音の仕方も含まれるので、そのあたりも都会風になっているのだろう。母親としては、そんな子供を一方では頼もしいとは思うのだが、他方ではついに「子離れ」の時期が到来したと感じている。そのことを口にするわけではないけれど、胸の内に寂しさが募るのはどうすることもできない。蕎麦は、元来が山畑などの痩せた土地に植えられた。逞しい植物とも見えるし、哀れとも見える。姿カタチも、全体としては美しいとは言えない。言うならば、雑草同然。だから、頼りなげな白い花が、ひとしお感傷を誘うのだ。戦後の岡本敦郎(武蔵野市でご健在です)の大ヒット曲に、「白い花の咲く頃」(1950)がある。田村しげるの詞には、何の花とも書かれていないが、中学生の私は聞いた途端に「蕎麦の花」を思った。「……さよならと言ったら、黙ってうつむいていたお下げ髪。悲しかったあのときの、あの白い花だよ」。故郷を後にして、若者が都会に出はじめたころの流行歌だった。『俳句の花・下巻』(1997)所載。(清水哲男)


August 2082000

 墜ちてゆく 炎ゆる夕日を股挟み

                           三橋鷹女

季。しかし、「炎ゆる夕日」は夏の季語である「西日」に近い感じだ。初秋の「西日」は、外気の暑さも加わって、たしかに炎えているように見える。童謡の一節「ギンギンギラギラ、ユウヒガシズム」の、あの感じだ。さて、掲句の主語は何だろうか。落ちてゆくのは「夕日」であるが、「墜ちてゆく」のは作者自身だろう。「墜ちてゆく」の後に一字分の空白が入れられていることから、それと理解できる。つなげてしまうと、つづく「股挟み」の主語が作者であるだけに、「墜ちてゆく」主体は「夕日」と限定されてしまう。それにしても、激しい気性の感じられる句だ。このとき、鷹女は六十歳か、六十一歳か。どうせ老いが避けられないのであれば、あの真っ赤な夕日を道連れに「墜ちてゆく」、いや「墜ちてやる」の気概はすさまじい。彼女は、みずからを魚に擬して「一句を書くことは 一片の鱗の剥奪である」と言った。ならば、いつの日にかは確実に全身赤裸となるわけだ。この句は、自身の「赤裸」が近いと心得た作者が、渾身の力を込めて太陽にむしゃぶりついてやるの気迫に満ちている。むしゃぶりつくだけではなく、その上での「股挟み」だ。「夕日」は、必ずしも感傷の対象にはあらず。俳句に命を賭けた者にしか、こういう壮絶な俳句は書けないだろう。六十二歳の私はといえば、ただ脱帽も忘れて、シュンとするのみ……。『羊歯地獄』(1961)所収。(清水哲男)


August 1982000

 長時間ゐる山中にかなかなかな

                           山口誓子

に、類句はあると思う。最近何かの句集で見かけたような気もしたが、失念してしまった。なにしろ「かな」と切れ字を連発する虫だもの、俳人が食指をのばさないわけがない。ただし、よほど考えて作らないと、駄洒落に落ちる危険性を伴う。その点、登山を趣味とした誓子の句は、実感に裏打ちされているだけに、よい味が出ている。それというのも、「かなかなかな」の最後の「かな」は切れ字としても働き、一方では鳴き声の続きとしても機能しているからである。この「かな」の二重の言語的な働きが、句の品格を保証し「山中」の情趣を醸し出している。「かなかな」の本名は「蜩(ひぐらし)」だろうが、こちらにも同時に着目したのが江戸期の人・一峰の「秋ふくる命はその日ぐらし哉」だ。いささか語るに落ちそうな句ではあるけれど、悪くはない。最後ではちゃんと「哉(かな)」と鳴かせている。着想した当人は、さぞかし得意満面だったろう。「かなかな」といえば、山村暮鳥の詩集『雲』(1925)に、好きな詩がある。「また蜩のなく頃となつた/かな かな/かな かな/どこかに/いい国があるんだ」(「ある時」全編)。暮鳥は『雲』の校正刷を病床で読み、間もなく永眠した。松井利彦編『山嶽』(1990)所収。(清水哲男)




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